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日経の「永田町インサイド」に「靖国問題米の本音は」「国務・国防長官の千鳥ケ淵献花、憶測呼ぶ」「アジア安定へ日中けん制」が書かれている。

 

「安倍晋三首相が秋季例大祭(17~20日)に合わせた靖国神社の参拝を見送る方向だ。靖国参拝は中国、韓国から反発が強く、必然的にオバマ米政権のアジア戦略にも影響する。米国は以前のように『世界の警察官』役を務められなくなり、日本など同盟国と分担しながらアジアでの影響力の維持を目指しているためだ。靖国参拝問題を巡る米国の本音を探った。

 

身長190センチメートルを超えるケリー米国務長官と180センチメートル弱のヘーゲル米国防長官。スーツ姿の2人が神妙な面持ちで並んだ。3日午前、靖国神社から約500メートル離れた千鳥ヶ淵戦没者墓苑。日米の政府関係者が見守るなか、2人は献花台に花束を手向け、15秒間の黙とうをささげた。米閣僚による異例の献花にどんなメッセージをこめたのか。
『米側からの申し出だった』。菅義偉官房長官は記者会見で、両氏の千鳥ヶ淵への献花は米側の発案であると明かした。政府内には『靖国参拝問題と絡められないか』との議論もあったが、首相周辺は『米側の要望を断る理由はなかった』と振り返る。
千鳥ヶ淵墓苑は第2次世界大戦中に海外で死亡した戦没者のうち身元が分からない『無名戦士』や民間人の遺骨を納めた国の施設。第2次大戦のA級戦犯を含む軍人、軍属らを合祀する靖国神社とは異なる。
首相は今年5月、米フォーリン・アフェアーズ誌とのインタビューで米国のアーリントン墓地を引き合いに靖国参拝への思いを語った。菅氏は首相の靖国参拝をけん制する狙いとの見方に『当たらない。深読みだ』と反論した。

 

そもそも今回の献花の発案はだれか。米政府関係者は『メデイロス米国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長、ラッセル国務次官補、リッパート国防長官首席補佐官の3人が発案に関与している』と指摘する。この3人はホワイトハウス、国務省、国防総省で対日政策の実務を取り仕切る。
複数の知日派は『首相在任中の靖国参拝を自粛してほしいとのサインだ』『靖国参拝に代わる追悼の形を日本側に示した』と分析する。検証すると妙なところで符合する事実がある。中国の反応だ。初の日本開催となった今回の日米外務・防衛の閣僚級協議(2プラス2)の主な目的は、アジア・太平洋地域で台頭する中国を軍事的に抑止する防衛協力指針(ガイドライン)の再改定だった。
本来なら猛反発してもおかしくないが、中国は国営通信の新華社が『外部に危険な信号を発信している』との評論記事を配信しただけにとどまった。中国が米閣僚の千鳥ヶ淵への献花を『首相の靖国参拝へのけん制』と受け止め、この程度の反発で済ましたとの見方も成り立つ。
米閣僚の千鳥ヶ淵献花を巡って憶測が広がったのは、首相在任中の靖国参拝自粛を望むオバマ政権の立場と結び付いた側面がある。米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・ハムレ所長は『首相は政府を代表する。参拝すれば、周辺国が反発する。外交の柔軟性を損ない、達成したい外交目標の実現を難しくする』と語る。
シリア問題の迷走に象徴されるように外交で余力の乏しい米国は、靖国問題を巡って日本と中韓両国が対立し、アジアが不安定になるのは避けたい。一方で靖国参拝は『日本の内政問題』(米ジョンズ・ホプキンス大教授のケント・カルダー氏)。直接的な自粛要求は内政干渉の批判を招きかねない。靖国問題は米側にとっても難題である」。
オバマ政権の「靖国問題」の本音は、「首相在任中の靖国参拝自粛」である。10月3日、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官の千鳥ケ淵戦没者墓苑での異例の献花がそれである。「首相在任中の靖国参拝自粛」へのサインである。

 

問題は、靖国問題が、日米同盟の根幹にかかわる大事になったことである。「世界の警察官」の役割を降りようとしているオバマ政権にとって、日中、日韓の対立はタブーであり、早期の和解を急いでいるからである。安倍首相は、在任中の靖国参拝自粛の決断を迫られている。不本意ながら決断せざるを得ない。歴史的使命を果たすために、「臥薪嘗胆」である。
 
 
編集 持田哲也

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