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日経の「風見鶏」に、大石格・編集委員が「よみがえる『列島改造』の幻」を書いている。

 

「5兆円の消費増税対策予算の分け前にどうあずかるか。土建業界が沸き立っているそうだ。アベノミクスに五輪開催に伴う事業増を加算した『アベベ・ノミクス』という造語もできたとか。アベベは49年前の東京五輪のマラソン優勝者だ。
そう教えてくれた業界人によると、リーマン・ショックと民主党政権の誕生の二重苦で2009年に4000万トンに落ち込んだ国内のセメント需要量が今年は4850万トンへと跳ね上がる見込みだ。『セメント運搬船が足りない。手当てできればもと増やせる』。意気軒高な話が続いた。
政治と土建業界の二人三脚はいまに始まったことではない。鍋弦線という鉄道路線をご存じだろうか。JR時刻表に載ってない?それもそのはず。東北地方を走る大船渡線のあだ名だからだ。
岩手と宮城の県境の地図をみると由来が読み取れる。一ノ関駅から三陸海岸へ直進すれば近いのに直角に曲がること4回。鍋の持ち手の形をしているのだ。1918年発足の原敬内閣が衆院に小選挙区制を導入し、当時の政治家は生き残りに奔走した。当初は南寄りに計画された大船渡線は2年後の衆院選で地元選出議員が入れ替わったことで途中から北寄りに変更された。弦の上辺にある摺沢駅には我田引鉄の『功労者』である議員の碑が立つ。こんな露骨な利益誘導劇を1世紀前の昔話と笑えるだろうか。
『新幹線を何とかお願いします』。今年7月の参院選の遊説で安倍晋三首相が福井駅前を訪れた際、選挙運動そこのけで陳情する西川一誠知事の姿があった。北陸新幹線の長野以遠の延伸が決まった2004年は小泉純一郎首相が公共事業削減に大なたを振るっていた時期。自民党の族議員たちも金沢まで伸ばすのが精いっぱいだった。それがアベノミクスで福井延伸がみえてきた。
問題はその進め方だ。自民党は金沢延伸時にひとつの仕掛けをした。当時の予算に福井駅整備費を盛り込んだのだ。いつ新幹線が乗り入れても大丈夫な立派な福井駅はとっくに完成済み。となると延伸打ち切りといいにくいのが人情だ。
似た手法は熊本-鹿児島間を先に建設した九州新幹線でもみられたし、長崎新幹線も終点の長崎駅から東向きにつくり出した。アベノミクスの錦の御旗のもとで、始めたら最後やめられないこうした公共事業が次々と動き出すのだろうか。

 

『だから計画が必要なんだ』。自民党の脇雅史参院幹事長を訪ねると、こんな答えが返ってきた。旧建設省出身で、党国土強靭化総合調査会の副会長を務める。いまは無秩序に予算の分捕り合戦をするから無駄が出る。与党が議員立法で国会提出した国土強靭化基本法案を早く成立させ、それに沿って国土の理想図を描けば、すべき公共事業といらないものの区分けが明確になるとの言い分だった。
計画ができるとつくることありきになりがちだ。10年で200兆円つぎ込むとの話もあると問うと『本当にいるならば500兆円でも1000兆円でもかければよい』と言い返された。日本列島改造論のよみがえりのような話にうなずく読者はどれぐらいおられるだろうか。

 

大船渡線の沿岸部は津波で破壊され、線路を舗装してバスが走るBRTに置き換えられた。地元政界は『鉄道復活』を叫ぶが、停留所にいた高校生に聞いたら『本数が増えていまの方が便利』との答えだった。土建業界の利益よりも住民の声に耳を傾けたアベノミクスにしてもらいたいものだ」。
コラムの結語である「土建業界の利益よりも住民の声に耳を傾けたアベノミクスにしてもらいたいものだ」は、正論である。日本列島改造論のよみがえりとして国土強靭化構想がそれである。岩盤規制を緩和する国家戦略特区構想と真逆である。問題は、本物のアベノミクスは、いずれか、である。
 
 
編集 持田哲也

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