日刊労働通信社 | 賃上げによる『アベノミクス』成否

賃上げによる『アベノミクス』成否

コラム 経済

 

毎日に「広がる賃上げムード」「経営側続々『前向き』」「ベアには温度差」が書かれている。

 

「企業のトップから、賃上げに前向きな発言が出始めている。円安で輸出関連企業を中心に業績が上向き、従業員に利益を還元する余力が出てきたためだ。安倍政権が経済界に対し、賃上げを強く要請していることも念頭にある。ただ、賃金の水準全体を底上げする『ベースアップ(ベア)』には慎重な企業も多く、温度差も見られる。
「景気は良くなっているし、我々もぜひ検討したい」。三菱自動車の益子修社長は先月29日の決算発表会見で、ベアの検討に言及した。富士重工業の吉永泰之社長も同31日、『これだけの成果を出してくれた。従業員に報いたい』とベアを含めて検討する方針。両社とも、過去のリストラの成果や市場回復で、2013年9月中間決算の最終(当期)利益が過去最高だった。
『ベア発言』が出始めたのは、企業業績が回復基調にあるため。SMBC日興証券によると、東証1部上場企業の9月中間連結決算は、経常利益の総額が19兆5000億円規模と、6年ぶりの高水準となる見込みだ。

 

安倍政権も、首相の経済政策『アベノミクス』の成否を占う重要な材料として賃上げに関心を寄せている。首相は『業績回復→賃金上昇や雇用拡大→消費拡大→さらに業績改善』という好循環の実現を目指す。せっかく業績が改善しても、賃金上昇がなければ持続的な景気回復は望めない。日本電産の永守重信社長も先月22日、『アベノミクスが失敗しないように応援する』とベア実施を明言した。
来年4月の消費増税が消費を抑制する懸念もあり、甘利明経済再生担当相は『来年の春闘がすごく大事』と指摘する。好業績なのに賃上げをしない企業の公表すら検討している。
政府の姿勢を追い風に、定期昇給維持や一時金増額に軸足を置いてきた連合も、14年春闘で5年ぶりにベアを要求する。労使ともに、賃上げムードが高まっている。
ただ、基本給を引き上げるベアは、退職金や一時金にも跳ね返る。一度上げると下げるのは難しく、招来にわたって人件費を押し上げる。企業のコストは増えるから、業績次第で上げ下げできる一時金に比べ、二の足を踏む企業が多い。

 

東芝の久保誠副社長は『上期は大幅な増収増益だった』として12月支給の冬のボーナス(一時金)を前年比3%アップさせることを明らかにする一方、ベアについては『業績や物価、消費増税の動きなどを総合的に勘案しながら検討したい』と慎重な言い回しに終始。主力の電機事業の競争なども見極め、慎重に検討する方向だ。
パナソニックも中間期で過去最高の最終利益をあげたが、13年3月期まで2期連続で7000億円を超える巨額赤字を計上し、過剰投資など「負の遺産」を一掃した成果。津賀一宏社長は『まだ賃上げから賃上げへと反転できる状況ではない』と述べ、新たな収益源を確保するなど成長が軌道に乗らない限り、賃上げは難しいとの認識を示した」。
賃上げは、アベノミクスの成否を決する大事となっている。「業績回復→賃金上昇・雇用拡大→消費拡大→業績改善」という好循環のカギだからである。賃上げに温度差はあるが、広かるムードにある。賃上げが、現実ものとなるか。
 
 
編集 持田哲也

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