日刊労働通信社 | 「したたか」と「姑息」の違い

「したたか」と「姑息」の違い

コラム 政治

 
日経の「風見鶏」に、秋田浩之・編集委員が「姑息でなく、したたかに」を書いている。
 
「いちど会って、話を聞いてみたい人がいた。中国軍の研究などで知られる米海軍大学のジェームズ・ホームズ准教授である。もし、いま日中が戦ったら、米軍の介入なしでも自衛隊が勝つ。2012年8月、こんな分析を有力な米外交誌『フォーリン・ポリシー』(電子版)に発表し、物議をかもした。
日中による戦争はまず、あり得ないと断ったうえで、双方の戦力を純粋に比べたという。先月末、来日したホームズ氏に会い、真意をたずねてみた。『物量では中国軍が勝っているが、外洋の訓練で鍛えられている自衛隊のほうが、能力は高い。いざとなれば、日本は南西の島々を使い、中国軍の進出も阻むこともできる』。
 
ただ、将来の見通しを聞くと『物量の差が開いていけば、やがて質で勝っていても(中国に)逆転される日がくる。いまの台湾がそうだ』とも語った。
逆転を防ぐには、日本が自助努力を急ぐとともに、『仲間』を増やす必要がある。日米だけでなく、アジアの国々との協力も広げなければならない。それにはまず、日本が信頼できると思われることが出発点になる。『筋を通す国だ』という評価を、得るということでもある。
では、ウクライナ危機をめぐる日本の対応は、どうか。米国と欧州連合(EU)はロシアの介入を非難し、制裁を決めた。日本政府内では連日、激しい議論が続いているが、なぜか、制裁はひかえている。
主要7カ国(G7)の協調が大原則とはいえ、米欧も一枚岩ではない。日本は領土交渉を進めるためにも、ロシアとの関係を決裂させるわけにはいかない。G7の枠内で、独自の対応を探るべきだ――。
関係者らによると、これが安倍晋三首相の本音のようだ。『首相はプーチン・ロシア大統領と5回、会った。これから領土交渉を、というときに、ご破算にしたくない思いがある』(首相周辺)
これが、間違っているというつもりはない。米欧にしても、どこまで本気でロシアと対決する覚悟なのかは、怪しい。
 
しかし『したたか』と『姑息』は違う。日本が絶対にやってはいけないのは、前者をめざし、結果的に後者の姿をさらしてしまうことだ。それを防ぐには、利害に流されず、要所では筋を通すということが大切ではないか。
日本は尖閣諸島をめぐり、中国が『力による現状変更』を試みていると非難している。ならばロシアによるクリミアの現状変更も、強く非難すべきだ。そのうえでロシアには、日本が厳しく出るのは原則を守るためであり、敵対したいからではない、と水面下で伝えればいい。
『日本が米国と協調せざるを得ないことは、ロシアも分かっている。日本が制裁すれば、ロシアは怒り、脅すそぶりをみせるかもしれない。それでも原則を通したほうが侮れず、結集的に領土交渉にプラスだ』。昨年まで、安保理を担当する国連の政務官として、大国の攻防に接してきた川端清隆氏は話す。
複数の外交筋によると、中ロ首脳は裏で、ひんぱんに連絡をとっている。中国はそのうえでロシアと制裁反対で共闘し、米欧とはウクライナの領土保全で同調する。だが、これは二枚舌と紙一重だ。
したたかな外交は、成功すれば国益になるし、失敗すれば『姑息な国』とみなされて終わる。安倍政権がそのリスクを冒してまでしたたかさを追及するなら、相当に緻密な計算と外交術が求められる」。
「姑息ではなく、したたかに」は、正論である。日本は筋を通して、米欧の制裁に同調すべきである。その上で、ロシアには、水面下で、敵対したいからではなく、く、原則を守るためだとの真意を伝えるべきである。既に、谷内氏を派遣して伝えているが。
 
編集 持田哲也

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