日刊労働通信社 | デフレからインフレへ

デフレからインフレへ

コラム 経済

 
日経の「けいざい解読」に滝田洋一・編集委員が「供給増へ投資の出番」「低すぎる成長の天井」を書いている。
 
黒田東彦日銀総裁は8日の記者会見でとても大切なことを語った。『日本経済の需給ギャップはほとんどゼロに近づいている』と言う認識を示したのだ。需給ギャップとは、経済全体でみて供給に比べ需要が足りないことを指す。モノやサービスを売ろうにも買い手が少ないのだから、値段は下がる。日本が苦しんでいた継続的な物価下落つまりデフレである。
このギャップが解消したのは、供給に比べて需要が持ち直したからだ。その結果、モノやサービスの値段は上がりだした。デフレの時代に幕が引かれ、緩やかな物価上昇つまりインフレの時代に入りつつある。
 
茶道に表千家と裏千家があるように、需給ギャップには様々な測り方がある。それにしても、最も重要な供給側の要素である人手が足りなくなっている。2月の失業率は3・6%。完全雇用に近い。今や大企業ばかりでなく中小企業でも賃金が上がり始めている。
黒田総裁は昨年4月に『2年をメドに2%のインフレを達成する』と約束した。その時は『できっこないさ』と懐疑のまなざしを向ける賢者たちが多かったはずだ。たった1年で世の中は様変わりといってよい。
 
アベノミクスと異次元緩和は魔法のつえだったのだろうか。謎を解くカギは、経済が無理なく伸びられる潜在成長率の低下に潜む。日銀によれば0・5%、内閣府の試算だと0・7%。
長引く景気低迷で、潜在成長率は1%をも下回る水準まで低下している。対する2013年度の実質成長率は2%台の半ば。この程度の成長でも潜在成長率の天井を突破し、需給ギャップが縮小するのである。
 
日本経済は体力の落ちた病人のようなものだ。デフレ不況で縮こまっているうちに、基礎体力がますます低下してしまった。これが潜在成長率の低下である。それではいけないと運動を始めた。アベノミクスの財政、金融政策であり、円高・株安の是正だ。おかげで体が温まってきたのはよいが、基礎体力が回復し切っていないものだから、下手をすると汗が止まらず息切れしてしまう。デフレの長いトンネルから抜けた後、いまの日本が直面するのはそんな事態である。
更新せず古くなった設備を使い続けると、ちょっと注文が増えただけでいたずらに繁忙となりかねない。特定の業種では人手が足らず、てんてこ舞い。かえって効率が落ちてしまう。
ところが、設備や雇用の不足を訴えながらも、新規の投資や正社員の増員に二の足を踏む企業も多い。高齢化や人口減の道を歩む日本では投資しても負担になるだけではないか。経営者にそんな究極のデフレ心理がへばりついている。
 
実際には成長の天井が意識されだした今こそ、情報技術を生かした合理化や省力化のための投資が欠かせない。20年には団塊の世代が全員70歳代になる。超高齢化に備えた介護ロボットの開発など、需要を先取りするときでもある。しがらみと足かせを取り払い企業の投資を引き出してこそ、低すぎる成長の天井を突破できる」。
「供給増へ投資の出番」は正論である。デフレの長いトンネルを抜けた後、今、日本が直面しているのは、供給増への設備投資の急増である。それには、法人実効税率の引き下げが急務となる。
 
編集 持田哲也

« »