日刊労働通信社 | 歴代内閣法制局長官の任務放棄

歴代内閣法制局長官の任務放棄

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産経の「正論」に西修・駒沢大学名誉教授が「違憲ありきの参院審議に違和感」を書
いている。
安全保障法制に関する参議院審議においても、違憲論が先行している。その主たる論
拠は、憲法学者の多数が違憲であると主張していることと、複数の元内閣法制局長官
が内閣の憲法解釈変更に異を唱えていることにある。私は、いずれにも強い違和感を
覚えずにいられない。

<学説は多数決になじまない>
第一に、いくつかの報道機関による憲法学者へのアンケートがなされ、圧倒的多数の
憲法学者が違憲と判断している旨、発表されている。あたかも多数の憲法学者の違憲
判断が正しく、少数派の合憲判断が間違っているような印象を多くの国民に植えつけ
ている感がある。
いったい学説は多数決原理になじむだろうか。『学説』とは文字通り、学問研究の成
果として導き出される考えの表明である。ある条文について自らの学説を確立するた
めには、その条文のよって立つ基本理念、成立経緯、比較法的な側面を十分に考慮に
入れて総合的に判断される。そこから引き出される解釈は、それぞれが到達した価値
判断といえる。少数説も、それが学問的な研究結果の上に積み立てられたものであれ
ば、最大限に尊重されなければならない。
率直に言って、多数派の違憲論は第9条に関する成立経緯の検証、各国憲法との比較
研究、国連憲章との関連性などが十分に反映されていると思われない。表層的解釈が
中心であって『寄らば大樹の陰』という感じを強く受ける。
学説の最大のキーポイントは、その学説がいかなる筋立てで組み立てられているかと
いう点にある。そこには『正解』は存在しない。『妥協』する必要もない。それが『
学説の世界』といえる。
一方、多数決原理は、民主主義社会にあって、それぞれの意見を大切にしつつ、最終
的に意見集約に向けてなされる政治的、社会的解決方法である。選挙、集会、議会で
の審議など、討議と妥協を通じ、政治的、社会的な場で取り入れられる原理である。
なんらかの結論が出されなければ、政治・社会生活は維持されないからだ。多数派は、
一応の合理性を得て、支配することが許される。ときの少数派は、将来の多数派をめ
ざして、賛成者の獲得に努力する。

<意味不明の内閣法制局解釈>
こうしてみると、学説と多数決原理は、最も相いれない関係にあるといわなければな
らない。にもかかわらず、違憲派と合憲派を数で峻別し、正否を判断するというがご
とき『数の論理』が憲法学の世界に入り込もうとしている。そしてまたそれが、政治
の世界で利用されている。異様な光景だ。
第二に、複数の元内閣法制局長官が、従来の政府解釈を変更することに異を唱え、限
定的にせよ、集団的自衛権を認めることは憲法に反すると主張している。内閣法制局
は、内閣に意見を具申する事務などをつかさどる内閣の補佐機関である。内閣がおか
れた状況に影響を受けることは否めない。たとえば、『戦力』に関し、自衛隊の前身、
保安隊の時代は、『近代戦争を遂行するに足る装備編成をもつものであって、保安隊
はそれに当たらない』との解釈を示していたが、自衛隊が創設されると、『戦力とは、
自衛のため、必要最小限度の範囲を超えているため、憲法上、認められない』という
意味不明の解釈をとるにいたった。

<集団的自衛権は国際法の常識>
国連憲章第51条は、個別的自衛権も、集団的自衛権もともに、加盟各国が保有して
いる『固有の権利』(自然権)と明記している。人間が生まれながらにもっている権
利が、自然権であるように、国家がその存立のために当然に保有している権利が、個
別的自衛権であり、集団的自衛権なのである。これが国際的な共通認識である。国際
法の常識でもある。
わが国が自衛のための必要な措置をとりうることは『国家固有の権能の行使として当
然のことといわなければならない』(昭和34年12月の砂川事件に対する最高裁判
決)という自明の論理に鑑みれば、わが国の存立に重大な影響を及ぼすような必要最
小限度の集団的自衛権は容認されると解釈すべきであった。激変する安全保障関係も
考慮し、本来、解釈の幅を残しておくべきだったのである。それが内閣を補佐すべき
内閣法制局の任務のはずだ。そのような任務を怠ったツケが現在、露呈している。元
内閣法制局長官らは、自らの任務を果たしえなかったことに反省の弁をこそ語るべき
だろう。

自らが最高裁判所にとってかわり、『憲法解釈の番人』であるような振る舞いは、三
権分立の原則を没却させる傲岸不遜の態度であるように映る」。
氏が指摘している「わが国が自衛のための必要な措置をとりうることは『国家固有の
権能の行使として当然のことといわなければならない』(昭和34年12月の砂川事
件に対する最高裁判決)という自明の論理に鑑みれば、わが国の存立に重大な影響を
及ぼすような必要最小限度の集団的自衛権は容認されると解釈すべきであった。激変
する安全保障関係も考慮し、本来、解釈の幅を残しておくべきだったのである。それ
が内閣を補佐すべき内閣法制局の任務のはずだ。そのような任務を怠ったツケが現在、
露呈している」は、正鵠を突いている。
そもそも、集団的自衛権は国際法の常識であり、国連憲章第51条に「固有の権利」
として明記されているのだから、1959年の最高裁の砂川判決を、内閣法制局長官
が「必要最小限度の集団的自衛権は容認される」と解釈すべきであった。ここが「違
憲論争」の肝である。

産経の「石平のChina Watch」に、「習政権『谷内氏厚遇」の理由」が書
かれている。
「今月中旬、訪中した国家安全保障会議(NSC)の谷内正太郎局長に対し、中国側は
『ハイレベル』な連続会談で対処した。
16日には外交を統括する楊潔?国務委員が夕食を挟み、5時間半にわたって会談し、
翌日午前には、常万全国防相が会談に応じた。そして、その日の午後、会談に出てき
たのは党内序列ナンバー2で首相の李克強氏である。
外交上の格式を重んじる中国で外国の『事務方官僚』へのこのような厚遇は前代未聞
である。それは谷内氏が単なる『一官僚』にとどまらず、安倍晋三首相の信頼が厚く、
日本外交父のキーマンであることを、 中国側がよく知っているゆえの対応であろう。
そのことは、中国の指導部が今、安倍首相を非常に丁寧に取り扱おうとしていること
の証拠だ。安倍首相を粗末にできないと思っているからこそ、『腹心官僚』の谷内氏
を手厚く歓待したのである。
昨年11月、習近平政権下の最初の日中首脳会談が北京で行われたとき、習主席は客
である安倍首相を先に立たせて、自分が後になって出てくるという無礼千万な態度を
取った。今回の対応ぶりとは雲泥の差である。この間、日中の間で一体何が起きたの
か。

日本側の動きから見れば、まずは今年4月下旬、安部首相が訪米し、オバマ大統領と
の間で日米同盟の強化で合意した。5月21日には、安倍首相が今後5年間、アジア
に1100億ドルのインフラ投資を行う計画を表明した。そして谷内局長訪中の当日、
東京では、安保法案が衆院を通過して成立のメドが立った。
この一連の動きは、中国側の目から見れば、まさに習政権が進めるアジア太平洋戦略
に『真っ向から対抗する』ものである。今、南シナ海問題をめぐって米中が激しく対
立する中、日米同盟の強化は当然、両国が連携して中国の南シナ海進出を牽制する意
味合いがある。
実際、常にアメリカと共同して中国の海洋拡張を強く批判しているのは安倍首相だ。
そして、集団的自衛権の行使を可能にする安保法案が成立すれば、今後日本は、同盟
国や準同盟国と連携して、中国の南シナ海支配を実力で封じ込めることもできるよう
になるのだ。
その一方、安倍首相が表明した『1100億ドルのアジア投資計画』は、誰の目から
見ても、まさに中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)計画への対抗措置で
あり、安倍首相による『AIIB潰し』ともいうべきものであろう。
つまり、習政権が進めるアジア太平洋戦略の要となる南シナ海進出とAIIB計画に
対し、日本の安倍政権は今や『大いなる邪魔』となっているのである。
そして、安倍政権の今後の出方によっては、習政権肝いりのこの2つの『目玉戦略』
は大きく頓挫してしまう可能性もあるのだ。
したがって習政権としては、安倍政権をそれ以上『野放し』にすることはもはやでき
なくなった。だからこそ、安倍首相と真剣に向き合って対話しなければならないと思っ
たのであろう。

今回、中国指導部は安倍首相の『腹心官僚』の谷内氏をあれほど厚遇して、9月の安
倍首相訪中を積極的に働きかけた。楊国務委員が谷内氏と5時間半にもわたって会談
したことは、まさに中国側の本気さの表れである。
対話から何かが生まれるかは今後次第だが、少なくとも、中国への日本の対抗力が強
化されたことが、習政権を日本との真剣対話に引き出したといえるであろう。『抑止
力あっての外交』とは、まさにそういうことではないのか」。
習政権が進める南シナ海進出とAIIB計画に「大いなる邪魔」となっている安倍政
権に対して、習政権は9月安倍訪中を受け入れざるを得ないのである。これが「抑止
力あっての外交」である。

日経の「政策レーダー」に、「最低賃金上げ、首相『介入』」「支持率低下、
焦り隠せず?」が書かれている。
「『最低賃金を1円上げたらどのくらい経済的な効果がでるか、消費にどういう影響
がでるのか』。16日の経済財政諮問会議。最低賃金に話題が及ぶと、安倍晋三首相
が突如、語気を強めて内閣府に調査を指示した。
最低賃金は厚生労働省の審議会で労使の協議で決める仕組み。政治家が介入する余地
は少ない。『諮問会議での首相の発言は予定されていなかった』(内閣府幹部)。想
定外の発言に首相の熱意を感じ取った霞が関は敏感に反応した。
『10~20円の引き上げで、所得の増加額は400億~900億円』。1週間後の
23日の諮問会議。内閣府が調査結果を報告すると、経済産業省は『中小企業への支
援を講じ最低賃金の引き上げの環境整備に全力をあげる』と支援策を表明。首相がそ
の場で『大幅な引き上げ』を言及する異例の展開となった。
内閣の介入劇に当惑したのが労働組合の代表である連合だ。上げ幅が決まった29日。
『内閣府が20円を上限とした調査結果を公表したから、18円に収まってしまった』
。審議会後に連合幹部はこう不満を漏らした。過去最大の賃上げは政権側の実績とな
り、労組側はお株を奪われた。
安全保障関連法案の衆院採決などをきっかけに政権の支持率は下がっており、最低賃
金での介入劇からは官邸側の焦りも透ける。『政労使会議はもう開かなくてもいいの
ではないか』。政府関係者からは参院選で対決する民主党の支持母体である連合とは
当面距離をおくべきだとの声すら漏れる。
内閣府が公表した経済見通しで16年度の消費者物価はガソリン価格などの上昇で1・
6%程度あがる。賃上げが進まないままでは有権者離れを招きかねない。参院選の勝
敗を決する1人区が多い地方はガソリン高の影響をもろに受ける。アベノミクスの改
革の果実への期待が高まるにつれ、経済運営は難しさを増している」。
16日の経済財政諮問会議での安倍首相の「最低賃金上げ」への介入発言によって、
29日、上げ幅が過去最大の18円に決まった。所得の増加は400億~900億円
である。内閣支持率引き上げと参院選対策のために、である。

 

 

編集 持田哲也

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