日刊労働通信社 | 本末転倒

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朝日の社説に「『違憲』法案」「限定なき兵站の中身」が書かれている。
「あまりの無限定ぶりと、政府の裁量の幅広さに耳を疑う。新たな安全保障関連法案をめぐる参院審議で、自衛隊が海外で行う兵站(後方支援)の中身の議論が焦点になっている。ここ数日の審議で、政府が法律上、他国軍に対して可能だと説明したのは次の通りだ。
【武器弾薬の輸送】米軍のミサイルや戦車、化学兵器、毒ガス兵器、核兵器

【弾薬の提供】手榴弾、ロケット弾、戦車砲弾、核兵器、劣化ウラン弾、クラスター爆弾

【給油活動】爆撃に向かう米軍の戦闘機や戦闘ヘリに対する空中給油や洋上の給油。核ミサイルや核爆弾を積んだ戦闘機や爆撃機への給油

弾薬の提供などが認められていないこれまでの法制に比べ、時の政権の裁量の余地が大きく広がっているのは間違いない。少なくとも、法文上の歯止めはないに等しい。
たとえば広範囲に子爆弾が飛び散り、不発弾被害も深刻なクラスター爆弾の輸送について、中谷防衛相は『法律上排除はしないが、日本は使用や製造を全面禁止した条約締結国で、慎重に判断する』と含みを残した。放射性物質を含む劣化ウラン弾の輸送も『他国の劣化ウラン弾を輸送できるか確定的に言えない』と明言を避けた。
法律上は可能であっても、実際に行うかどうかは総合的に政策判断する、というのが政府の立場だ。事実、日本は核兵器や劣化ウラン弾、クラスター爆弾を持っておらず、他国軍に提供できないのはその通りだ。
ただ、核兵器の輸送などおよそ想定にしにくいケースはまだしも、一般的に米国から輸送を強く要請された時、日本政府が拒むことは考えにくい。
これまでは、他国軍との武力行使の一体化にあたり、憲法違反になることが一応の歯止めとされていた。それでも、イラクでの自衛隊の空輸活動では、武装した米兵らを輸送していたことが明らかになった。これで安保法案が成立したら、なんでもありにならないか。
法案では、兵站の対象は米軍に限らない。実施地域も『現に戦闘を行っている現場』以外は容認される。世界のどこでも他国軍に弾薬が提供でき、武器弾薬を輸送でき、発進準備中の航空機への給油もできる。
他国軍の武力行使と一体化しかねないこれだけの兵站が、時の政権の政策判断、裁量によってできる余地がある。集団的自衛権の行使容認だけでなく、兵站の中身をみても、違憲の疑いがますます濃い」。
社説の結語である「集団的自衛権の行使容認だけでなく、兵站の中身をみても、違憲の疑いがますます濃い」に異論がある。自衛隊が海外で行う兵站(後方支援)は、そもそも集団的自衛権の行使容認に沿って実施されるものであるから、行使容認が合憲であるから、合憲となるが。問題は、行使容認が合憲か、違憲かである。「兵站の中身をみても、違憲の疑いがますます濃い」は、本末転倒となるが。

日経に「自民総裁選、見えぬ対抗馬」「内閣支持率低下でも」「『10月人事』で冷遇懸念」が書かれている。
「9月末の任期満了に伴う自民党総裁選に向け、安倍晋三首相(党総裁)の対抗馬を擁立する動きが鈍い。内閣支持率は低下傾向で首相への不満がくすぶるものの、10月の内閣改造の『人事カード』も警戒して首相に表立って盾突きにくい雰囲気が漂う。安全保障関連法案や原発再稼働で世論の逆風を受けても、首相が無投票で再選するとの見方は依然として強い。
5日夜、石破茂地方創生相に近い議員でつくる『無派閥連絡会』が都内のホテルで開いた夏季研修会。『自分の選挙区で安全保障法案を分かってもらうために努力しなければならない』。石破氏はこう強調し、総裁選への対応に触れなかった。
石破氏は2012年の総裁選で首相と戦い、決選投票で敗れた。党の地方組織には人気があり、今回も有力な対抗馬になれる位置に立つ。だが党内で首相の再選を支持する声は多く、再選は堅い。『閣僚の立場で首相との政策の違いが浮かべば、党内の反発を招きかねない』と周辺はみる。

<野田氏ら慎重>
要職から外れている議員や、首相の保守路線に疑問を抱くハト派には不満がたまる。そんな勢力が注目するのが野田聖子前総務会長だ。ハト派の元議員からの期待も強く、古賀誠元幹事長は月刊誌のインタビューで、対抗馬が出て選挙戦にすべきだと主張。野田氏のほか岸田文雄外相や林芳正農相の名を挙げた。
野田氏は5日、党本部で記者団に『日々の仕事をこなすので精いっぱい。まずは目の前にある宿題を片付けようという日々だ』と述べ、出馬に慎重な姿勢をにじませた。野田氏の側近は『いま総裁選に出てもその後の人事で干されるだけ。いいことはない』と語る。
首相は再選すれば2018年9月末までの任期を得たうえで、10月に内閣改造・自民党役員人事に踏み切るとみられる。総裁選の出馬には党所属国会議員20人の推薦が必要で、対立陣営の推薦人になった場合に人事で冷遇されかねず、20人を集めるハードルは高い。

<野党はバラバラ>
内閣支持率が下がっても、野党は政権批判層をうまく取り込めていない。野党が弱くてバラバラなため、自民党内で来夏の参院選に向けて危機感を抱いて安倍首相に対抗する動きにつながりにくい。首相が衆院解散のカードを持ちながら、引き続き政権運営の主導権を握っている。
ただ安保法案の参院審議では野党から追求を受け、九州電力川内原発の再稼働も予定している。14日に閣議決定する戦後70年談話の内容次第で内外に波紋を広げ、公明党としこりを残す可能性もある。支持率が落ち込むリスクもはらみ、総裁選の構図は変わる不透明な要素は捨てきれない」。
二階派が、9日、派閥の先陣を切って安倍再選を表明した。10月人事を狙ってのものである。各派閥も再選支持を表明せざるを得ない。無投票再選の流れが決まったと言える。

日経の「風見鶏」に、中沢克二・編集委員が「写真が示す習主席の秋波」を書いている。
「マルコ・ポーロが美しさをたたえた北京郊外の盧溝橋。日中戦争の勃発の地に立つ抗日戦争記念館は7月末、共産党が動員した見学者らであふれていた。赤い旗を先頭に歩く中国各地からの視察団が目立つ。
中国の習近平国家主席は抗日戦争勝利70年の9月3日、北京で大規模な軍事パレードを行う。旧日本軍の侵略を強調する記念館の新たな展示で雰囲気づくりを狙うが、最後の展示室に入ると様相が一変する。安倍晋三首相と習主席が握手する写真が掲げてあるのだ。
『2014年11月10日、習主席は日本の要請に応じて安倍首相と会談しました』学芸員は団体を前にわざわざ北京APEC(アジア太平洋経済協力会議)での3年ぶりの日中首脳会談を紹介した。聴衆はざわつく。ある中年の中国人男性が隣の知り合いに尋ねた。『安倍(首相)はまた北京に来るのか?』
中国では記念館の写真1枚でさえ現実の外交の道具だ。9月の大行事に日本を含む多くの外国首脳の参加を望むトップの意図をくむ。学芸員は付け加えた。
『習主席は(安倍首相に)歴史問題は13億の中国人民の感情にかかわると強調しました』。秋波を送る半面、歴史問題では圧力を加える硬軟両様の構えだ。
習主席の日本への秋波は単なる社交辞令ではない。中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本を引き入れたいとの思いは強い。その証左がある。4月22日、インドネシアでの日中首脳会談での公表されていない発言だ。習主席は日本のAIIB参加を強く促した。安倍首相が透明性の問題をただし、話が一段落すると習主席は蒸し返した。『ぜひとも参加を』。25分間の短い会談で2度の要請。日本側は真剣さに驚く。中国の対外戦略に日本は必要なのだ。
未公表の内容はまだある。同じ場で習主席は安倍首相に面と向かって9月訪中も招請していた。7月に中国入りした谷内正太郎国家安全保障局長も李克強首相、楊潔?国務委員と突っ込んだ話をしている。軍事パレード参観、式典参加のハードルは高いが、これを避けた形の訪中は焦点だ。

6日のマレーシアでの日中外相会談では首相訪中を巡る発言はなかった、というのが公式見解だ。膠着状態である。前日の王毅・中国外相の立ち話が面白い。
『安倍首相訪中の調整が変数です。日本側から回答はないですか?』。中国国営テレビ記者が水を向けると、王外相は苦笑いしつつ答えた。『かつて聞いたことがない。全く日程上にはない』。発言が中国内で全国放映されたのがミソだ。安倍再訪中の可能性の告知と、実現は日本の態度次第だというけん制だった。
王外相は『北戴河』も気にしていた。中国は今、内政の季節である。習主席ら最高指導部と長老が河北省の保養地で激しく議論している。長老らの反対を押し切って軍の元制服組トップを断罪した直後だけに情勢は不透明だ。首相の戦後70年談話の中身や、対中政策が絡む安全保障法制の行方によって対日強硬論が再び強まりかねない。
2001年、当時の小泉純一郎首相は8月13日、靖国神社に参拝し、10月に日帰り訪中した。抗日戦争記念館で『忠恕』(真心と思いやり)と揮毫した傍らには、官房副長官だった安倍首相がいた。
かつて中国が対日関係の修復を探った際、中国首脳と握手する小泉氏の写真を抗日記念館に掲げた時期もあった。その写真は消えた。さて、安倍首相と習主席の握手写真は今後、どうなるのか。秋に向けた日中接触から目が離せない」。
習近平主席の9月下旬の訪米前の安倍再訪中は、中国側からの懇請である。中国経済危機打開のために、日本の協力が必須だからである。習主席の日本への秋波は本物である。

 

編集 持田哲也

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