日刊労働通信社 | 「1989年と同時性」

「1989年と同時性」

政治

毎日の「金言」に、西川恵・客員編集委員が「『天皇の終焉』の意味」を書いている。

「天皇陛下が生前退位の意向を示唆されたお言葉で、強く印象づけられたのが『天皇の終焉』という表現だ。『逝去』でも、『死亡』でもない。ここには一個人の死を超えた、天皇が体現してきたシステム、体制、時代がピリオドを打つという意味が込められているように感じる。
その通りだと思うし、このことは実感として私にある。1989年は冷戦が終結した年として国際政治の世界では記憶されているが、日本にとっては昭和天皇の死(1月7日)で明け、『ベルリンの壁』の崩壊(11月9日)で暮れた一年、との印象が強い。
昭和天皇の死と冷戦終結が同じ年に重なったのはもちろん偶然だ。しかしそれを超えたところで、後から振り返ると一つの死がある時代的意味を示唆し、時代的転換の節目だったと想起されることは少なくない。またそうやって我々は、自分なりの歴史を刻んでいく。
あの時、私はパリ特派員だった。昭和天皇が亡くなった同じ日、明けてパリでは化学兵器禁止国際会議が開幕した。会議の冒頭、議長のミッテラン仏大統領は予告なく『日本の天皇が亡くなられた。黙とうをささげたい』と提案し、143カ国の首脳らが静かに頭を垂れた。日本の宇野宗佑外相はこのイニシアチブに感激し、大統領に日本としての感謝の念を伝えている。
世界の元首・首脳を集めて『大喪の礼』(2月)が執り行われ、日本が平成の時代に入っていく中、世界も時代の歯車がギシギシと回り出す。ソ連軍のアフガニスタンからの撤退(同月)、共産主義のポーランドでの初の自由選挙(6月)と、共産主義体制に亀裂が広がり、ついには『ベルリンの壁』が崩れ、東欧諸国の民主化が緒についた。

一つの時代の終焉から別の時代へ。89年の激流は皇后の美智子さまの歌に表れている。美智子さまは同年、昭和天皇の逝去に際しこう詠んだ。『セキレイの冬のみ園に遊ぶさま告げたしと思ひ醒めてさみしむ』
セキレイの遊ぶ様子を昭和天皇に伝えようとして夢からさめ、昭和天皇がもうこの世におられないのを寂しく悟った。一つの時代が逝ったことへの愛惜の念と喪失感が漂う。そしてこの年末の歌。『われらこの秋を記憶せむ朝の日にブランデンブルク門明るかりしを』
東西ベルリンを隔ててきたブランデンブルク門が朝日に輝く。『壁』崩壊で人々が自由に行き来できるようになった喜びと、新しい時代への希望がにじむ」。
コラムの主旨である「『天皇の終焉』の意味」は、正論である。
天皇陛下の生前退位の意向が、である。1989年1月7日の昭和天皇崩御、現天皇陛下即位から始まった「平成」の時代にピリオドが、である。1989年は昭和天皇崩御とベルリンの壁崩壊の歴史的転換となったが、あれから27年の2016年8月、生前退位の意向と南シナ海、東シナ海での中国の脅威増大、北朝鮮の核・ミサイル発射による北朝鮮の脅威増大は、同時性であり、歴史的転換を意識せざるを得ない。
問題は、歴史的転換の役割を担う政権の危機管理能力が厳しく問われることである。事実、1989年には、竹下政権、宇野政権、海部政権と3政権が交代している。危機管理能力がなく、任に非ずであるからだ。今の安倍晋三政権は真逆である。「天皇の終焉」の意味である時代の転換、歴史的転換の転轍手の役割を十全に果たせる資格を有している。安倍1強であり、2021年までの長期政権となるが。安倍晋三政権の歴史的宿命である。

毎日の「米国の選択」に「トランプ旋風曲がり角」「暴言続き嫌気、支持率が下落」が書かれている。
「米大統領選共和党候補の実業家ドナルド・トランプ氏(70)について、度重なる『暴言』や外交・安全保障政策などを問題視し、支持しないことを公言する同党議員や元政府高官らが相次いでいる。トランプ氏はこれらの人々を『失敗したワシントンのエリート』などと批判し、『アウトサイダー』としての支持拡大を模索。しかし、民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官(68)との差は開く一方で、厳しい局面に立たされている。

『ドナルド・トランプは米軍最高司令官になるための気質、判断力、自己鍛錬に欠けていると結論づけた』
共和党穏健派のコリンズ上院議員は9日、CNNテレビでトランプ氏不支持の理由を説明した。これに先立つ米紙ワシントン・ポストへの寄稿では、トランプ氏の『自制が利かず、無知に基づく発言の数々が世界をより危険にする』と指弾。11月の本選に向けてトランプ氏の『変身』を期待したが、変わらなかったため決断したという。
連邦議会では、既にハンナ下院議員がトランプ氏を「不適格」とし、民主党のクリントン氏に投票することを宣言。上下両院で10人以上が不支持の意向を表明するか、強くにじませるかしている。
さらに痛烈な批判を浴びせたのが、共和党の歴代政権を支えた元高官らだ。外交・安全保障政策の中枢を担った元高官50人は8日、『米国史上で最も無謀な大統領になる』とトランプ氏を批判し、『投票しない』と宣言する共同声明を発表。同党政権で環境保護局長官を務めた2人も9日、『トランプ氏は環境と公衆衛生保護を尊重する共和党の伝統を壊そうとしている』とし、クリントン氏支持を表明した。
主な原因は、候補指名を受けた7月の党全国大会の後も、暴言がやまないことだ。イラクで戦死したイスラム教徒のカーン陸軍大尉の両親を宗教をにじませながら繰り返し攻撃。ロシアによるウクライナ領クリミア半島の一方的な編入については『私はクリミアの人々はロシアと共にいることの方を望んでいたと聞いた』など、編入を容認する発言をした。9日には、銃所持者にクリントン氏らへの何らかの『行動』を促したと受け取られる発言で、物議を醸した。
クリントン氏の陣営は10日、共和党政権の閣僚や政府高官など約50人の支持者リストを公表。グティエレス元商務長官やヒルズ元米通商代表部(USTR)代表ら元閣僚や政府高官のほか、議員や知事の経験者、経済界の有力者らが名を連ねた。陣営はトランプ氏に懸念を強める共和党や無党派の有力者に働きかけるチームを設立し、切り崩しを始めたことも併せて発表した。
政治サイト『リアル・クリア・ポリティクス』が集計した世論調査による支持率の平均値では、クリントン、トランプ両氏は7月末はほぼ並んでいた。しかし、8月に入って上昇基調のクリントン氏に対しトランプ氏は下落基調。10日時点ではクリントン氏48・0%に対し、トランプ氏は40・3%だ。本選で勝利するためには、共和党を結束させたうえで無党派層を取り込んで激戦州で勝たなければならない。トランプ氏は態勢立て直しが急務だ。

<トランプ氏また、「オバマ氏がIS創設」>
米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏(70)が10日のフロリダ州での集会で、過激派組織「イスラム国」(IS)について『オバマ大統領に敬意を払っている。彼がISの創設者だからだ。共同創設者はひねくれクリントンだ』と語る場面があった。
トランプ氏は最近の世論調査で、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(68)に大きくリードを許している。トランプ氏の発言はオバマ氏とクリントン氏の失策がISの台頭を招いたと訴える趣旨とみられるが、再び暴言と受け止められ、物議を醸す恐れもある」。
政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が集計した世論調査による支持率の平均値は、7月末は、両氏は拮抗していたが、8月10日時点でクリントン氏48・0%、トランプ氏40・3%と差がついた。7月党大会後もトランプ氏の暴言が相次ぎ、「米軍最高司令官」として不適格となったからである。差は拡大するのみである。

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