日刊労働通信社 | 米中貿易戦争が最大限の圧力

米中貿易戦争が最大限の圧力

政治

産経の主張に「米国の対米交渉」「『最大限の圧力』に復帰を」が書かれている。

「金正恩朝鮮労働党委員長が米朝首脳会談で約束した『非核化』は、やはりまやかしだったということか。
 訪朝した米国のポンペオ国務長官が高官級協議で、核計画・戦力の申告や『完全かつ検証可能で不可逆的な廃棄(CVID)』を求めた。だが北朝鮮は『強盗的な要求』と反発したのである。
 
核・ミサイル戦力を放棄する気がないことがはっきりした。北朝鮮が高官級協議で提示したのは、朝鮮戦争の終戦宣言や大陸間弾道ミサイル(ICBM)エンジン実験場の廃棄などで、核廃棄には直接つながらないものばかりだ。協議を長引かせて核保有国であり続けようとしているだけである。
 
事態は極めて深刻だと受け止めるべきだ。CVIDを受け入れなければ、実効性ある話し合いにはならない。一体何のための米朝首脳会談だったのか。
 
ポンペオ氏は、8日の日米韓外相会談で、北朝鮮と『誠実で生産的な協議ができた』と説明した。日韓両国は米国を後押しすることになったが、楽観的すぎる。
 
トランプ米大統領が米朝首脳会談を大成功と位置づけているから、ポンペオ氏は北朝鮮との協議がはかばかしくないのに取り繕ってはいないか。
 
高官級協議で拉致問題を提起した点は歓迎できるが、ポンペオ氏は核・ミサイルで『生産的な協議』をしたと裏付ける具体的進展は何ら示さなかったのである。
 
北朝鮮は外務省報道官談話でトランプ氏への『信頼は維持している』と強調した。トランプ氏だけを持ち上げて油断させることで、米国からの圧力をかわそうという魂胆があらわである。
 
偽りの非核化をちらつかせ、制裁解除や体制保証を米国から取り付けたいのだろう。だが、核・ミサイルを持ち続ける北朝鮮は脅威であり、決して認められない。
 
トランプ氏から一度は首脳会談中止を突きつけられて慌てふためいた北朝鮮が、不誠実な交渉者に戻ったのはなぜか。中国という後ろ盾ができたこともさることながら、トランプ氏が米韓軍事演習の中止という一方的な譲歩で、軍事的圧力を弱めてしまったことが大きい。
 
ならば、北朝鮮にとるべき態度は決まっている。経済、軍事両面で名実共に『最大限の圧力』をかける路線に復帰することだ」。

主張の主旨である「『最大限の圧力』に復帰を」に異論がある。

トランプ政権は、「最大限の圧力」を今もかけ続けているからである。7月6日からの米中貿易戦争がそれである。北朝鮮の金正恩委員長が6月12日の米朝首脳会談後の3度目の訪中によって、習近平国家主席から体制の保証と経済支援を取り付けてから、米朝協議が3週間も遅れ、金正恩氏のCVID履行への覚悟が揺らいでいるのは事実であるが、トランプ政権にとっては想定内である。だからこその米中貿易戦争による中国への制裁なのである。

問題は、金正恩氏のCVID履行への覚悟の揺らぎを収め確固たるものにすることである。米中貿易戦争のトランプ政権の本気度は、金正恩氏への最大限の圧力となっている。米朝協議の渋滞は、米韓合同軍事演習の再開=斬首作戦の実行を招くとの恐怖心を、煽るからである。米中貿易戦争による中国バブル経済の崩壊の兆しが、金正恩氏をしてCVID履行への覚悟を固め直すことになるが。

 産経の「湯浅博の世界読解」に「中国悪弊封じ 同盟国と協力を」が書かれている。

「太平洋を挟んだ貿易戦争がついに始まった。米国の大型貨物船『ピークペガサス』は、全速力で大海原を西に向かっていた。船倉には、米西海岸で積んだ中国向けの大豆を満載している。

ピークペガサスがまだ洋上にある6日正午(北京時間)すぎ、ワシントンは事前の布告どおりに中国製品に対する制裁関税を発動させた。理由は、中国による国際ルール無視の知的財産権侵害による悪弊にある。

船長は中国が対抗して報復関税の引き金を引く前に、大連港での荷揚げを済ませたいと急いでいた。

だが、大型船の入港直前に中国が報復を発動させた。ピークペガサスは多くの米中両国の貿易会社やビジネスマンとともに、この貿易戦争の最初の犠牲者になった。全米商工会議所のトーマス・ドナビュー会頭は、『関税は誰にとっても、価格を引き上げる増税と同じである』と嘆いた。

減税案を掲げるトランプ政権が『増税』とはどういうことなのか。確かに、貿易戦争によって高関税を払うのは外国企業ではない。自動的にモノの値段が上がって、つまりは米国の消費者が支払うことになる。すると、その分が政府の懐に歳入として入ることになるから、会頭のいうように『増税』と少しも変わらないことになる。

トランプ大統領の支持基盤である米中西部の人々は、はじめは追加関税に留飲を下げても、やがては物価の上昇、株価の下落、農産物は中国市場を失う懸念が現実化する。それは、中国におけるピークペガサスの大豆も同じことになる。

とはいえ、トランプ政権が中国の国際ルール無視の振る舞いに、乱暴ではあるが対抗措置に踏み切るのは当然なのだ。

周知の通り、中国の対外政策はどこまでも自己中心的である。広域経済圏構想の『一帯一路』は、途上国のインフラ整備に高利で貸し付け、返済不能になると『租借』名目で港湾などを巻き上げる。習近平政権の産業政策『中国製造2025』計画は、他国の技術を強制的に移転し、知的財産権の侵害も辞さない。

もっとも、トランプ政権のやり方が賢明であるとは思わない。貿易政策は、中国だけではなく同盟国の貿易黒字まで標的にして、結果的に中国を利することになる。米国はカナダや欧州にまで追加関税を課したから対抗上、彼らも報復関税の引き金を引かざるを得なくなる。そうなると、元凶の中国は国家の体面上からも、やはり報復に踏み切ることになった。

こうなると、経済ナショナリズムは暴走して、互いに引くにひけなくなる。トランプ政権の追加関税は、世界貿易機関(WTO)に違反するから、中国の国際ルール違反を米国がルール違反で正すことに正当性がなくなるだろう。

むしろ、トランプ政権がとるべき政策は、同盟国と協力して、中国の悪弊を封じこめることではないのか。米議会では共和、民主両党が、米国によるインド太平洋地域への関与を許可する『アジア再保証イニシアチブ法案』を審議し、米政府に同盟国との関係強化、台湾への支援、多国間貿易協定の促進を求めることにしている。これにより、トランプ政権の危うい外交政策が軌道修正されることを期待するばかりだ」。

米中貿易戦争の勝者は米国であり敗者は中国となることは明らかである。11月の米中間選挙までに結果は出る。中国封じ込めの同盟国との協力はそれ以降となる。

 日経の「真相 深層」に「太平洋『米中二分論』を微修正」「習氏、周辺国に融和サイン」「対米長期戦へ仲間づくり」が書かれている。

「中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が6月27日、訪中したマティス米国防長官に『太平洋は米中とその他の国を受け入れることができる』と語った。従来は米中二分論を主張してきたが、唐突に『その他の国』が加わった。周辺国に配慮したような発言の変化には何があるのか。会談の4日前に開かれた重要会議を読み解くと、友好国を増やして長期的に米国と対峙する戦略が浮かぶ。

太平洋二分論は2007年、中国軍高官が米軍に提唱して衝撃を与えた。習氏自身も2012年、国家副主席として訪米した際、当時のオバマ米大統領に『広大な太平洋は中米両国を受け入れる十分な広さがある』と呼びかけた。少なくとも西太平洋は主導権を握りたいとの発想で、その後も繰り返し主張している。だが、今回は米中だけでなく『その他の国』が共存することを認めた。

<重要会議で表明>

中国の外交関係者によると、発言を読み解く鍵は共産党が6月下旬に4年ぶりに開いた『中央外事工作会議』にあるという。これまで06年と14年の2回しか開いていない外交政策の大方針に関する最重要会議だ。

習近平氏は会議で対外政策を3つに分けて説明した。①大国関係はうまく整え、安定的でバランスよい関係に向けた枠組み作りを目指す②周辺外交に取り組み、中国に有利な近隣環境をつくる③発展途上国は国際実務における生来の『同盟軍』であり、強力と団結に取り組む――。太平洋二分論を微修正した一義的な意味は、周辺国の対中警戒に対する配慮と言える。

関係者は習氏が自ら表現ぶりを決めた一節が最重要だと指摘する。『現在の国際情勢を見るだけでなく、歴史の望遠鏡を使って歴史の法則を理解し歴史が向かう大勢をとらえる』ことが必要だと説いた部分だ。内部説明聞いた人物によると、発言の意味するところは次のような趣旨だ。

大国は歴史の中で興亡を繰り返してきた。米国も衰退期に入り、いずれ中国の時代が来る。ただ、現時点では米国の方が強大だ。周辺国や発展途上国と連携して国力を高め、機が熟すのを待つ--。わざわざ重要会議を開いたのは、この方針を党や政府はもちろん、軍や民間企業にも徹底させるためだったという。

これを裏付けるように中国の外交当局者は最近、抑制的な外交姿勢を心がけた鄧小平の『韜光養晦(とうこうようかい)』という概念によく言及する。軍事的な能力や野心は隠し、その間に力を蓄えるとの外交方針だ。久しく耳にしなくなっていたが、他国の外交官らと接触する場で再び使われ始めている。

もちろん過去と違い大国となった今の中国には隠しきれない爪がある。台湾や南シナ海など『核心的利益』と位置づける重要権益では、強硬姿勢をあらわにする。それでも、従来よりは融和路線の方向に政策の舵を動かしたようだ。中国への警戒を薄れさせ、味方になる国を増やすためだ。

<危機感の裏返し>

北京の国際政治学者は『習指導部は対米関係を重視するあまり、米国の動きに対処する〝反応式外交″に陥っている』と指摘する。北朝鮮との関係改善に動いたのは、トランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)委員長の接近に対抗するため。対米通商摩擦は米国の制裁に応戦を迫られているだけで、中国から仕掛けたわけではない。

米国が対中強硬姿勢を続ければ、いずれ軍事的な緊張につながる。習氏がこれまで通りの勇ましい外交政策を掲げていれば、現場の部隊が過度に反応するリスクがある。党内で1強の地位を確立しても、組織の末端まで方針を伝えるのは容易でない。重要会議を開き、党内の勉強会を通じて浸透させる必要があった。発言の微修正はしたたかな戦略だけでなく、危機感の裏返しでもある。

この見方に立てば、中国は引き続き日本を含む周辺国との関係改善を進めるだろう。南シナ海の軍事拠点化は続けるが、米軍が最重視するスカボロー礁(中国名・黄岩島)への着手は慎重にならざるを得ない。北朝鮮には米国と競うように接近を続ける。朝鮮半島の混乱を避け、米国への交渉カードとするためだ」。

トランプ政権による米中貿易戦争の仕掛けは、強大国中国のアキレス腱を突くものとなった。対米貿易黒字40億ドル(年間)の半減が狙いである。習政権の強権統治と軍事力拡大の原資である外貨準備高(ドル)が消滅してしまうのである。習近平体制の存続の危機である。

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