日刊労働通信社 | 強い結束北朝鮮に示す

強い結束北朝鮮に示す

政治

毎日の「論点スペシャル」「日米首脳会談」で、西岡力・麗沢大客員教授が「『強い結束』北朝鮮に示す」を述べている。

「過去2回行われた金正恩・朝鮮労働党委員長との首脳会談で、トランプ大統領は計3回も拉致問題を取り上げてくれた。今回の訪日でも安倍晋三首相と問題解決に向けて綿密に打ち合わせを行い、貴重な時間を割いて被害者の家族とも面会した。他国の問題であるにもかかわらず、大統領は拉致問題を『自分のイシュー(案件)』と位置づけている。普通ならあり得ないことで、心強い限りだ。

大統領はなぜ、これほど拉致問題を重視しているのか。一つには、日本側の粘り強い働きかけが実を結んだということがある。安倍首相によると、大統領との初めてのゴルフの際、一緒にカートに乗りながら拉致の話をずっとし続けたそうだ。被害者の家族も20年ほど前から毎年訪米し、米政府高官らに協力を求めてきた。その結果、被害者家族が米国で面会相手に『13歳の少女が』と切り出そうとすると、『それは分かっている。何か新しい話があれば教えてくれ』と言われるようになった。大統領とその周辺が拉致問題の深刻さ、そして一日も早い解決を願う家族の気持ちを十分に理解してくれているのは間違いない。

また、拉致が核・ミサイルを巡る米朝交渉を進めるうえで避けて通れない案件になっているということも、大統領が拉致を重視する理由の一つとなっている。

米朝首脳会談で大統領は金委員長に『核を完全に放棄し、拉致の解決など人権問題に取り組めば北朝鮮は豊かな国になれる。ただし、米国は経済支援できない』と明言した。独裁国家・北朝鮮への経済支援を、人権を重視する米議会が認める可能性は低いからだ。そこで浮上してくるのが、米国は核・ミサイル問題が解決すれば北朝鮮への経済制裁を解除し、日本は拉致問題の解決後に北朝鮮への経済支援を行うという『役割分担』だ。核・ミサイルだけでなく、拉致でもカードを切らない限り北朝鮮は経済支援を受けられないという原則は、日米で完全に共有されている。今回の大統領の訪日は、日米の結束は強固だという北朝鮮へのメッセージになったはずだ。

北朝鮮では今、飢えが広がりつつあるとされる。国際社会による経済制裁の効果だと言われ、実際、北朝鮮は米国に終戦宣言ではなく制裁解除を強く求めるようになった。拉致問題の解決と国交正常化が前提だが、巨額の経済支援を期待できる日本は北朝鮮にとって重要な存在だ。安倍首相も『条件をつけずに会談を』と言っており、3回目の米朝首脳会談の前か後かはともかく、遠からず日朝首脳会談が行われるはずだ。

その場合、安倍首相は絶対に『拉致被害者全員の即時一括帰国』という原則を変えてはいけない。原則は変えずに、しかし、トップ同士でうそ偽りなく語り合える信頼関係を構築する。大変な難題だが、それ以外に道はない。被害者の親たちは、わが子が帰ってくるなら日朝国交正常化に反対しないし、北朝鮮への経済支援にも反対しないと決断した。ここから先は安倍首相が直接、金委員長と取引するしかない。米国と十分に意思疎通をしながら、一歩一歩進んでいってほしい」。

3回目の米朝首脳会談の前後に日朝首脳会談が行われるのは必然である。核・ミサイルだけでなく拉致でもカードを切らない限り北朝鮮は経済支援を受けられないとの原則が日米で共有されており、その再確認が今回の日米首脳会談である。金正恩氏への強いメッセージである。

毎日の「論点スペシャル」「日米首脳会談」で、細川昌彦・中部大特任教授が「貿易交渉 急ぐ理由はない」を述べている。

「日米首脳会談では『貿易交渉を加速させる』という認識で一致した。トランプ米大統領は8月の合意に期待感を示したが、これは来年の米大統領選に向けてアピールできる成果が早くほしいからだ。米国が離脱した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が昨年末に発効したことで、米国の農産品の対日輸出は他国に比べて不利になっている。米国側が焦っているのであり、日本が早期合意に応じなければならない理由はない。

トランプ氏は記者会見で農産品の関税引き下げに絡み、『私は(TPPの水準に)縛られない』と発言した。しかし、実際にはTPP以上の関税引き下げを日本側に求めることはないだろう。対日輸出で不利な状況を解消し、関税がTPPの水準になれば米国側は満足する。大統領選への対応が本格化する今年秋までに合意できればいいだろう。

ただ、日本だけが米国の農産品の関税を下げるという交渉はあり得ない。米国が日本から輸入する自動車や工業製品には関税がかかっており、工業製品の関税引き下げを含めた『パッケージ』でないと日米の合意は成立しない。茂木敏充経済再生担当相は交渉について『ウィンウィン』という言葉をよく使うが、言い換えれば、日米による『ギブ・アンド・テーク』という意味だ。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表もパッケージでの合意が必要なことは分かっているはずだ。

焦点は米国が2・5%の関税をかけている自動車・同部品の扱い。自動車部品の関税が即時撤廃されれば、その部品を使って米国の完成車工場を稼働させることが容易になる。トランプ氏が求める対米投資や現地での雇用拡大につながるもので、その観点からも日本が『関税撤廃が必要』と米国側に訴えることは非常に論理的だ。

一方、仮にトランプ政権が自動車・同部品に25%の追加関税を課せば、米国経済も打撃を受けることになる。輸入車だけでなく、日本の部品を使っている米国産の車も影響を受け、車の価格が上がるためだ。消費者から不満が出るはずで、トランプ氏は自分の首を絞めるようなことはしないだろう。『日本は閉鎖的』というトランプ氏の誤解を解くのが安倍晋三首相の役割。あとはトランプ氏が大統領選で成果をアピールできるようにすればいい。

一方、米国と中国による貿易戦争は今後も延々と続くのではないか。トランプ氏の選挙戦にとっては、中国との対立が続いた方が逆にプラスに働くのかもしれない。米国議会も対中国で強硬姿勢を示しており、安易に妥協してしまうとトランプ氏が逆に批判を受けることになる。彼は政治的な嗅覚が鋭いので、その辺は理解しているだろう。株価さえ暴落しなければ大丈夫とも考えているはずだ。

中国による知的財産権侵害などは日米欧共通の課題だ。日本も世界貿易機関(WTO)改革などを通じて中国に改善を促すとともに、米国を自由貿易の立場に引き込むべきだ。日米欧が連携して中国を揺さぶれば、日本にとっては米国に対するアピールにもなるだろう」。

トランプ大統領は「TPPに縛られない」と発言したが、関税がTPPの水準並みになれば米国側は満足し、今年秋までの合意で了とする。米中貿易戦争がメインであり、日米は同盟国だからである。トランプ再選には、安倍4選が前提であり、対中国への同盟国としての配慮が優先するからである。安倍が困ることはしないと。

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