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内閣支持率45%、不支持率45%で拮抗

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読売に「70年談話『評価する』48%」「本社世論調査『しない』は34%」が書かれている。
「読売新聞社は15~16日、全国世論調査を実施した。戦後70年の安倍首相談話を『評価する』と答えた人は48%で、『評価しない』の34%を上回った。先の大戦への『痛切な反省と心からのおわび』を表明した、歴代内閣の立場を引き継ぐ考えを示したことを『評価する』は72%に達し、『評価しない』の20%を大きく引き離しており、談話を好意的に受け止める人が多かった。
首相は談話で、『先の世代に、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません』と述べた。今後も日本が『謝罪を続ける方がよい』とした人は27%で、『そうは思わない』が63%に上った。談話が、中国や韓国との関係に『悪い影響を与える』は19%、『良い影響を与える』は14%で、『とくに影響はない』が50%だった。
安倍内閣の支持率は45%と、前回調査(7月24~26日)の43%からほぼ横ばいだった。不支持率は前回の49%から4ポイント下がり、45%。前回は第2次安倍内閣発足以来、初めて不支持率が支持率を上回っていたが、今回は同率で並び、支持率下落に歯止めがかかった。
参院で審議中の安全保障関連法案については、『賛成』が31%、『反対』が55%となった。法案の今国会での成立に『賛成』は26%(前回26%)、『反対』は64%(同64%)だった。政府・与党が法案の内容を十分に説明していると思わない人は79%(同82%)と、国民への理解は広がっておらず、政府にはより丁寧な説明が求められそうだ」。
15,16日実施の読売調査で、内閣支持率は前回調査(7月24~26日)より2ポイント増の45%、不支持率は4ポイント減の45%と拮抗した。70年談話を「評価する」48%が押し上げたからである。特に、「歴代内閣の立場を引き継ぐ」を評価するは72%に達した。4つのキーワードを使ったことが正解であった。
問題は、今国会での安保法案成立に反対が64%もあることだ。「安保法案は戦争法案」に同調しての反対64%であるから、「歴代内閣の立場を引き継ぐ」を評価する72%と矛盾するが。「70年の安倍談話」と「安保法案は戦争法案だ」は、真逆である。安倍首相への信が戻る契機となるが。「安保法案は戦争法案だ」に、国民が疑問を感じ出したのである。騙されたとして、離反した内閣支持層が回帰してくるから、そのコアである自民支持層の思想武装が急務となる。内閣支持率は再度、50%台に戻るが。

 

日経に「GDP実質年率1・6%減4~6月」「7~9月は官民プラス予測」「中国減速がリスク」が書かれている。
「政府が17日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、輸出と消費が振るわず、3四半期ぶりのマイナス成長となった。落ち込みは一時的で7~9月期以降はプラス成長に戻るというのが官民に共通する見方だが、中国経済の減速や食品値上げによる消費者心理の悪化は景気回復シナリオの逆風になりかねない。
内閣府がまとめた4~6月期のGDP速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0・4%減、年率換算で1・6%減となった。

 

<「一時的な要素」>

 

ただ政府も民間調査機関もマイナス成長は一時的で景気は踊り場にあるとみている。甘利明経済財政・再生相は17日の記者会見で、天候不順によるエアコン販売減少や増税による軽自動車の販売減などを踏まえ、『一時的な要素はかなり大きい。回復の見込みはかなりある』と分析した。
民間調査機関10社がまとめた予測を集計したところ、7~9月期の実質経済成長率の見通しは平均で年率1・9%増。2期連続のマイナス成長を予測するところはなく景気後退局面に入るとの見方は出ていない。野村証券の木下智夫氏は『輸出、個人消費、設備投資の3つのエンジンで景気は回復軌道に戻る』とみる。
個人消費は猛暑で飲料などの季節商品の売れ行きが伸びるほか、3月末に交付決定されたプレミアム付き商品券の9割が9月末までに販売されることも下支えになる。設備投資は4~6月期に横ばい圏にとどまったが、日銀や日本政策投資銀行の調査では強気の計画が相次いでいる。
ただ下振れリスクは残る。海外景気の減速を受けた4~6月期の輸出は想定以上の落ち込みだった。中国や東南アジア向けのスマートフォン用部品や自動車が落ち込んだほか、米国向けの生産機械も振るわなかった。
バークレイズ証券の森田京平氏は『米国経済の回復を受けて、輸出は7~9月期は増加する」と予測するが、中国などアジア向け輸出の先行きは不透明感が強い。中国の人民元切り下げは中国景気の回復に寄与する可能性がある一方で、日本の貿易にとっては安価な中国製品の輸入が増え、輸出が減るリスクがある。

 

<元安も懸念材料>

 

元安で中国人の購買力が落ちれば、訪日外国人消費もペースダウンしかねない。訪日客消費は4~6月期に実質で年率換算2・5兆円と過去最高になっただけに、冷え込むようなことがあれば地域経済の打撃になる。
資源国や新興国の景気も懸念材料だ。中国の需要減少で原油など商品価格は下落が続いている。米国の利上げで投資マネーの引き揚げが進めば
新興国経済は落ち込み、日本の輸出に響くリスクが増す。
国内では家計の節約志向が強まっているのが懸念材料だ。円安で食用油や調味料など生活必需品の値段が上がり、大企業を中心に春に賃上げがあったにもかかわらず、家計が貯蓄志向を強める兆しが出ている。消費者心理が低下すれば消費の下押し要因になる。

 

<企業好調、海外で稼いでも、国内投資・賃金に回らず>

 

4~6月期は企業業績が好調だったのに国内総生産(GDP)はマイナスに陥った。GDPと企業収益が連動しないのは、企業が海外で稼いだ利益が国内の投資や賃金に回っていないためだ。
日本経済新聞社の集計では、上場する3月決算会社(1532社)の4~6月期の決算から集計した経常利益の合計は、前年同期比で24%増え、9兆円を超えた。金融危機前の07年4~6月期を8年ぶりに上回り、過去最高を更新した。
GDPは国内で発生した付加価値の総額で、海外で稼いだ利益は反映しない。海外から得た利子や配当所得などを含めた国民総所得(GNI)をみると、4~6月期は前期比年率で2・0%増えている。自動車や電機など主力輸出企業の海外売上高比率は6割程度にまで高まったとみられる。村田製作所やTDKは9割超となり、日産自動車も8割半ばだ。海外での稼ぎが企業収益を支える構図となっている。
ただ海外で稼いだ利益は国内の投資や賃金にはさほど回っていない。全雇用者への賃金総額を示す雇用者報酬は4~6月期に実質で前期比0・2%減った。設備投資も0・1%のマイナスだった。
企業は海外の稼ぎを現地で再投資に回したり、現地法人に滞留させたりする傾向がある。収益改善が国内の投資や賃上げに回る循環が生まれなければ、『海外頼みの経済成長となり長続きしない』(明治安田生命の小玉祐一氏)との指摘もある」。
政府が17日に発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は、輸出と消費が振るわず、3四半期ぶりのマイナス成長となったが一時的であり、7~9月以降はプラス成長も戻る。問題は、企業業績が好調なのにGDPがマイナスに陥った理由である。企業が海外で稼いだ利益が国内の投資や賃金に回っていないからである。解決策は、企業の海外工場立地からの国内回帰以外にない。1ドル=125円超の円安水準と中国経済減速が加速させることになるが。

朝日の社説に「マイナス成長」「危うい政策目標と想定」が書かれている。
「内閣府が発表した4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は3四半期ぶりにマイナス成長となった。物価変動の影響を除いた実質成長率は前期比0・4%減。このペースが1年間続くと想定した年率換算では1・6%減だった。
回復が進むと見られた個人消費が落ち込んだ。円安で食料品などが値上げされたが賃金はそれほど伸びず、実質的な家計の負担が増したためだ。また、円安効果で伸びると期待された輸出も、6四半期ぶりのマイナスだった。
昨年4月の消費増税後、景気はゆるやかに回復していると見られていた。ここにきてのマイナス成長は日本経済の実像を考えるうえで示唆的である。このマイナス成長は何か大きなショックによって引き起こされたものではない。むしろこの間、経済環境は比較的良好だった。企業業績は改善し株価は回復。雇用増の動きも活発だ。訪日観光客の急増で関連産業は潤った。日本銀行は金融緩和を続け、公共事業も高水準だ。
こんな好条件のもとでも日本の成長率はさえなかった。もちろん、世界経済には不安定な動きも確かにあった。欧州ではギリシャ債務問題による混乱があり、中国経済は減速傾向が次第にはっきりしてきた。
とはいえ、こうした海外要因は一時的なものではない。しばらくこの不安定な状況が続くと見たほうがいい。ならば、今後輸出が劇的に増えたり、日本を訪れる外国人観光客の需要がさらに飛躍的に盛り上がったりすることは想定しにくく、外需に過大な期待はできない。

 

政府は、2020年度に基礎的財政収支を黒字にするという財政健全化計画を掲げている。その前提は実質2%、名目3%という高い成長率である。だが、今回のマイナス成長という現実を冷静に分析すれば、成長期待だけで財政再建を進める危うさは自明と言える。
また2%インフレ目標を掲げて大規模な金融緩和を続ける日銀にも、貴重な指標となったはずだ。消費者が先行きの物価上昇を予想すれば、消費を盛んにして需要を押し上げ、成長率は高まる。そんな日銀のシナリオ通りの消費行動は現れていない。この政策に無理があることが、次第にはっきりしてきたのではないか。
政府も日銀も、現実を出発点にして、想定する成長率やインフレ率を修正し、経済戦略や金融政策を組み立て直す。そんな必要があることを、今回のマイナス成長は示唆している」。
社説の結語である「政府も日銀も、現実を出発点にして、想定する成長率やインフレ率を修正し、経済戦略や金融政策を組み立て直す。そんな必要があることを、今回のマイナス成長は示唆している」に異論がある。
マイナス成長は一時的であり、7~9月期はプラス成長に戻るからである。日銀の更なる金融緩和が必須となるが。2%インフレ目標達成のために、である。デフレマインドを払拭するために。

 

編集 持田哲也

歴代内閣法制局長官の任務放棄

国際 政治 社会 経済

産経の「正論」に西修・駒沢大学名誉教授が「違憲ありきの参院審議に違和感」を書
いている。
安全保障法制に関する参議院審議においても、違憲論が先行している。その主たる論
拠は、憲法学者の多数が違憲であると主張していることと、複数の元内閣法制局長官
が内閣の憲法解釈変更に異を唱えていることにある。私は、いずれにも強い違和感を
覚えずにいられない。

<学説は多数決になじまない>
第一に、いくつかの報道機関による憲法学者へのアンケートがなされ、圧倒的多数の
憲法学者が違憲と判断している旨、発表されている。あたかも多数の憲法学者の違憲
判断が正しく、少数派の合憲判断が間違っているような印象を多くの国民に植えつけ
ている感がある。
いったい学説は多数決原理になじむだろうか。『学説』とは文字通り、学問研究の成
果として導き出される考えの表明である。ある条文について自らの学説を確立するた
めには、その条文のよって立つ基本理念、成立経緯、比較法的な側面を十分に考慮に
入れて総合的に判断される。そこから引き出される解釈は、それぞれが到達した価値
判断といえる。少数説も、それが学問的な研究結果の上に積み立てられたものであれ
ば、最大限に尊重されなければならない。
率直に言って、多数派の違憲論は第9条に関する成立経緯の検証、各国憲法との比較
研究、国連憲章との関連性などが十分に反映されていると思われない。表層的解釈が
中心であって『寄らば大樹の陰』という感じを強く受ける。
学説の最大のキーポイントは、その学説がいかなる筋立てで組み立てられているかと
いう点にある。そこには『正解』は存在しない。『妥協』する必要もない。それが『
学説の世界』といえる。
一方、多数決原理は、民主主義社会にあって、それぞれの意見を大切にしつつ、最終
的に意見集約に向けてなされる政治的、社会的解決方法である。選挙、集会、議会で
の審議など、討議と妥協を通じ、政治的、社会的な場で取り入れられる原理である。
なんらかの結論が出されなければ、政治・社会生活は維持されないからだ。多数派は、
一応の合理性を得て、支配することが許される。ときの少数派は、将来の多数派をめ
ざして、賛成者の獲得に努力する。

<意味不明の内閣法制局解釈>
こうしてみると、学説と多数決原理は、最も相いれない関係にあるといわなければな
らない。にもかかわらず、違憲派と合憲派を数で峻別し、正否を判断するというがご
とき『数の論理』が憲法学の世界に入り込もうとしている。そしてまたそれが、政治
の世界で利用されている。異様な光景だ。
第二に、複数の元内閣法制局長官が、従来の政府解釈を変更することに異を唱え、限
定的にせよ、集団的自衛権を認めることは憲法に反すると主張している。内閣法制局
は、内閣に意見を具申する事務などをつかさどる内閣の補佐機関である。内閣がおか
れた状況に影響を受けることは否めない。たとえば、『戦力』に関し、自衛隊の前身、
保安隊の時代は、『近代戦争を遂行するに足る装備編成をもつものであって、保安隊
はそれに当たらない』との解釈を示していたが、自衛隊が創設されると、『戦力とは、
自衛のため、必要最小限度の範囲を超えているため、憲法上、認められない』という
意味不明の解釈をとるにいたった。

<集団的自衛権は国際法の常識>
国連憲章第51条は、個別的自衛権も、集団的自衛権もともに、加盟各国が保有して
いる『固有の権利』(自然権)と明記している。人間が生まれながらにもっている権
利が、自然権であるように、国家がその存立のために当然に保有している権利が、個
別的自衛権であり、集団的自衛権なのである。これが国際的な共通認識である。国際
法の常識でもある。
わが国が自衛のための必要な措置をとりうることは『国家固有の権能の行使として当
然のことといわなければならない』(昭和34年12月の砂川事件に対する最高裁判
決)という自明の論理に鑑みれば、わが国の存立に重大な影響を及ぼすような必要最
小限度の集団的自衛権は容認されると解釈すべきであった。激変する安全保障関係も
考慮し、本来、解釈の幅を残しておくべきだったのである。それが内閣を補佐すべき
内閣法制局の任務のはずだ。そのような任務を怠ったツケが現在、露呈している。元
内閣法制局長官らは、自らの任務を果たしえなかったことに反省の弁をこそ語るべき
だろう。

自らが最高裁判所にとってかわり、『憲法解釈の番人』であるような振る舞いは、三
権分立の原則を没却させる傲岸不遜の態度であるように映る」。
氏が指摘している「わが国が自衛のための必要な措置をとりうることは『国家固有の
権能の行使として当然のことといわなければならない』(昭和34年12月の砂川事
件に対する最高裁判決)という自明の論理に鑑みれば、わが国の存立に重大な影響を
及ぼすような必要最小限度の集団的自衛権は容認されると解釈すべきであった。激変
する安全保障関係も考慮し、本来、解釈の幅を残しておくべきだったのである。それ
が内閣を補佐すべき内閣法制局の任務のはずだ。そのような任務を怠ったツケが現在、
露呈している」は、正鵠を突いている。
そもそも、集団的自衛権は国際法の常識であり、国連憲章第51条に「固有の権利」
として明記されているのだから、1959年の最高裁の砂川判決を、内閣法制局長官
が「必要最小限度の集団的自衛権は容認される」と解釈すべきであった。ここが「違
憲論争」の肝である。

産経の「石平のChina Watch」に、「習政権『谷内氏厚遇」の理由」が書
かれている。
「今月中旬、訪中した国家安全保障会議(NSC)の谷内正太郎局長に対し、中国側は
『ハイレベル』な連続会談で対処した。
16日には外交を統括する楊潔?国務委員が夕食を挟み、5時間半にわたって会談し、
翌日午前には、常万全国防相が会談に応じた。そして、その日の午後、会談に出てき
たのは党内序列ナンバー2で首相の李克強氏である。
外交上の格式を重んじる中国で外国の『事務方官僚』へのこのような厚遇は前代未聞
である。それは谷内氏が単なる『一官僚』にとどまらず、安倍晋三首相の信頼が厚く、
日本外交父のキーマンであることを、 中国側がよく知っているゆえの対応であろう。
そのことは、中国の指導部が今、安倍首相を非常に丁寧に取り扱おうとしていること
の証拠だ。安倍首相を粗末にできないと思っているからこそ、『腹心官僚』の谷内氏
を手厚く歓待したのである。
昨年11月、習近平政権下の最初の日中首脳会談が北京で行われたとき、習主席は客
である安倍首相を先に立たせて、自分が後になって出てくるという無礼千万な態度を
取った。今回の対応ぶりとは雲泥の差である。この間、日中の間で一体何が起きたの
か。

日本側の動きから見れば、まずは今年4月下旬、安部首相が訪米し、オバマ大統領と
の間で日米同盟の強化で合意した。5月21日には、安倍首相が今後5年間、アジア
に1100億ドルのインフラ投資を行う計画を表明した。そして谷内局長訪中の当日、
東京では、安保法案が衆院を通過して成立のメドが立った。
この一連の動きは、中国側の目から見れば、まさに習政権が進めるアジア太平洋戦略
に『真っ向から対抗する』ものである。今、南シナ海問題をめぐって米中が激しく対
立する中、日米同盟の強化は当然、両国が連携して中国の南シナ海進出を牽制する意
味合いがある。
実際、常にアメリカと共同して中国の海洋拡張を強く批判しているのは安倍首相だ。
そして、集団的自衛権の行使を可能にする安保法案が成立すれば、今後日本は、同盟
国や準同盟国と連携して、中国の南シナ海支配を実力で封じ込めることもできるよう
になるのだ。
その一方、安倍首相が表明した『1100億ドルのアジア投資計画』は、誰の目から
見ても、まさに中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)計画への対抗措置で
あり、安倍首相による『AIIB潰し』ともいうべきものであろう。
つまり、習政権が進めるアジア太平洋戦略の要となる南シナ海進出とAIIB計画に
対し、日本の安倍政権は今や『大いなる邪魔』となっているのである。
そして、安倍政権の今後の出方によっては、習政権肝いりのこの2つの『目玉戦略』
は大きく頓挫してしまう可能性もあるのだ。
したがって習政権としては、安倍政権をそれ以上『野放し』にすることはもはやでき
なくなった。だからこそ、安倍首相と真剣に向き合って対話しなければならないと思っ
たのであろう。

今回、中国指導部は安倍首相の『腹心官僚』の谷内氏をあれほど厚遇して、9月の安
倍首相訪中を積極的に働きかけた。楊国務委員が谷内氏と5時間半にもわたって会談
したことは、まさに中国側の本気さの表れである。
対話から何かが生まれるかは今後次第だが、少なくとも、中国への日本の対抗力が強
化されたことが、習政権を日本との真剣対話に引き出したといえるであろう。『抑止
力あっての外交』とは、まさにそういうことではないのか」。
習政権が進める南シナ海進出とAIIB計画に「大いなる邪魔」となっている安倍政
権に対して、習政権は9月安倍訪中を受け入れざるを得ないのである。これが「抑止
力あっての外交」である。

日経の「政策レーダー」に、「最低賃金上げ、首相『介入』」「支持率低下、
焦り隠せず?」が書かれている。
「『最低賃金を1円上げたらどのくらい経済的な効果がでるか、消費にどういう影響
がでるのか』。16日の経済財政諮問会議。最低賃金に話題が及ぶと、安倍晋三首相
が突如、語気を強めて内閣府に調査を指示した。
最低賃金は厚生労働省の審議会で労使の協議で決める仕組み。政治家が介入する余地
は少ない。『諮問会議での首相の発言は予定されていなかった』(内閣府幹部)。想
定外の発言に首相の熱意を感じ取った霞が関は敏感に反応した。
『10~20円の引き上げで、所得の増加額は400億~900億円』。1週間後の
23日の諮問会議。内閣府が調査結果を報告すると、経済産業省は『中小企業への支
援を講じ最低賃金の引き上げの環境整備に全力をあげる』と支援策を表明。首相がそ
の場で『大幅な引き上げ』を言及する異例の展開となった。
内閣の介入劇に当惑したのが労働組合の代表である連合だ。上げ幅が決まった29日。
『内閣府が20円を上限とした調査結果を公表したから、18円に収まってしまった』
。審議会後に連合幹部はこう不満を漏らした。過去最大の賃上げは政権側の実績とな
り、労組側はお株を奪われた。
安全保障関連法案の衆院採決などをきっかけに政権の支持率は下がっており、最低賃
金での介入劇からは官邸側の焦りも透ける。『政労使会議はもう開かなくてもいいの
ではないか』。政府関係者からは参院選で対決する民主党の支持母体である連合とは
当面距離をおくべきだとの声すら漏れる。
内閣府が公表した経済見通しで16年度の消費者物価はガソリン価格などの上昇で1・
6%程度あがる。賃上げが進まないままでは有権者離れを招きかねない。参院選の勝
敗を決する1人区が多い地方はガソリン高の影響をもろに受ける。アベノミクスの改
革の果実への期待が高まるにつれ、経済運営は難しさを増している」。
16日の経済財政諮問会議での安倍首相の「最低賃金上げ」への介入発言によって、
29日、上げ幅が過去最大の18円に決まった。所得の増加は400億~900億円
である。内閣支持率引き上げと参院選対策のために、である。

 

 

編集 持田哲也

朝日の「時時刻刻」に「論戦アベノミクス」

政治 経済

20141006「脱デフレVS格差拡大」「民主、伸びぬ消費『誤算』追及」「首相、株高や賃上げ実績示す」が書かれている。

「衆院予算委員会で本格的な論戦が始まった3日、民主党は反アベノミクスの論陣を張った。株
高や円安で業績が改善した企業がある一方、実質賃金が下がり続けるなど効果には疑問も出てい
る。成功へのステップか、失速への曲がり角か――安倍晋三首相の消費増税の判断を控え、アベ
ノミクスへの評価が論争の舞台にせり上がってきた。

『アベノミクスがうまくいっているというのは本当か。格差を広げる政策だ。株を持っている人
はよりお金持ちになるが、一般のサラリーマンや年金生活者はどんどん苦しくなる』。民主党の
前原誠司元代表は予算委員会でこう断じた。

前原氏の指摘は、アベノミクス『第1の矢』の日本銀行の金融緩和による円安で、食料品やガソ
リンの価格が上がり、賃金が上がっても物価高で実質的には賃金が下がってしまう点だ。『実質
賃金が下がり、消費が伸びない。<好循環>の大きな誤算だ』と迫った。

これに対し、安倍首相は『株価は消費につながる。買い物をすれば、モノをつくっている人には
プラスになり、収益の上がった企業の賃金になる』という『好循環』論で反論した。

日経平均株価はこの1年余り頭打ち気味だが、政権発足当初の1・5倍超となる1万6千円前後
になった。政権発足当初から25円ほど円安が進み、企業が海外でのもうけを円に換算した利益
も膨らんだ。パートを含む労働者1人が受け取る現金給与総額も、8月が平均27万4744円
と6カ月連続で増加した。

しかし、8月の実質賃金指数は前年同月比2・6%減と14カ月連続でマイナスが続く。円安に
消費増税が加わって上昇する物価に賃金の上昇が追い付かない。今春、自ら賃上げを求めた首相
も実情は分かっている。前原氏に対し『賃金が追いつくようにしていく。時差があるため、財政
政策と成長戦略を進めることが大切だ。ただ、消費増税分は年金や医療、介護、子育てに充てる
ので分けて考えてほしい』と答弁した。

首相が『第2の矢』と位置づける財政出動についても、前原氏は『建設業界は全国各地で入札不
調が起きている。人が足り倒産している』とただした。首相は『機動的な財政出動を行っていく
中で、デフレを脱却していく』と答えたが、効果には限界もみえる。

安倍政権は昨年、景気対策や消費増税対策として通常の予算に計3・4兆円の公共事業を追加し
たが、人手不足や円安による資材の高騰で、受注したのに完成してない工事額を示す『未消化工
事高』は7月、過去最高の16・7兆円に達した。これ以上、公共事業で景気を上向かせようと
しても、効果は見込めないとの指摘も出ている。前原氏は首相に『この2本の矢』は見直すべき
だ』と迫った」。

3日の衆院予算委員会で、民主党の前原誠司元代表が「アベノミクスがうまくいっているという
のは本当か、格差を広げる政策だ。株を持っている人はよりお金持ちになるが、一般のサラリー
マンや年金生活者はどんどん苦しくなる』とアベノミクスを批判したが的外れである。

アベノミクスとは、20年デフレからの脱却を目指す経済成長ありきの経済政策なのである。1
991年から2012年までの21年間、日本のGDPは、ゼロ成長であった。日本を除くOE
CD加盟国は、21年、年率名目成長4%を継続してきたのに、である。20年デフレ故に、で
ある。この脱却を期したアベノミクスの第1の矢である金融緩和とは、マネタリ-ペースの増加
=通貨供給量の拡大に尽きるのである。デフレからインフレに、である。その結果が、79円の
超円高から30円円安の109円の超円安である。

問題は、円安・株高→賃上げ→個人消費増→企業収益増→円安・株高の好循環が、4月からの消
費税増税によって、一転、悪循環となったことである。3%分の消費税増税の上乗せの物価上昇
が、賃金上昇を上回り、実質賃金減少となったからである。悪循環の元凶はここである。「好循
環」を取り戻すために、再増税先送りとなる。民主党も同調し、アベノミクスを評価せざるを得
ない。

産経に「米、就業者24万8000人増」「9月」「失業率6年2カ月ぶり低水準」が載ってい
る。

「米労働省が3日発表した9月の雇用統計によると、景気動向を敏感に反映する非農業部門の就
業者数は24万8千人増で、市場予想(21万5千人)を上回った。8月の20万人割れから、
2カ月ぶりに大台を回復した。また失業率は前月から0・2ポイント低下の5・9%(市場予想
は6・1%)に改善、リーマン・ショック前の2008年7月(5・8%)以来、6年2カ月ぶ
りの低い水準となった。

外国為替市場では、景気回復が確認されたことで、米連邦準備制度理事会(FRB)による利上
げの前倒し観測が広がり、ドル円相場は一時、1ドル=109円台後半まで円安ドル高が進んだ。

就業者の内訳では民間部門が23万6千人増で、景気回復の目安である10万人増を大きく上回っ
た。7月と8月の就業者数は上方修正された。ただし6カ月以上の長期失業者崇は295万4千
人で、8月から微減にとどまった。働く意欲のある人の割合を示す労働参加率は0・1ポイント
減の62・7%で、職探しを諦めた人の多さも懸念されている。FRBは28,29日の連邦公
開市場委員会(FOMC)で、量的緩和政策終了を決める見通し。利上げ時期は慎重に検討して
いる」。

3日に発表された9月の米雇用統計は非農業部門の雇用者数が24万8000人増と市場の事前
予想を上回る内容だったことを受け、米ダウ工業株30種平均が上昇、心理的節目の1万700
0ドルを回復した。円相場は109円台後半に下落した。米景気の力強さが確認され、ドル高・
円安基調が続くことになる。週明けの東京株市場で、日経平均の大幅反発が予想される。

「安倍首相は『普通選挙』支持を旗幟鮮明に」

毎日の社説に「香港学生デモ」「民主化は普遍的願いだ』が書かれている。

「民主派や学生らは国際標準に基づいた普通選挙の実施を求め、金融街である『中環(セントラ
ル)地区の選挙をスローガンにデモに入った。当初、香港警察が使用した催涙ガスを防ぐため。
学生らが傘を使ったことから欧米メディアから『雨傘革命』と呼び名がついた。中国は学生らの
道路占拠を『違法行為』と非難し、『過激人士』と批判しているが、国際世論は学生らに同情的
だ。参加者が平和的にデモに徹して投石や警察との衝突を避けていることもあるが、何より、学
生らが求める民主選挙の要求は普遍的なものだと受け止めているからだろう」は、正論である。

1日、オバマ米大統領は、中国の王毅外相との会談で「香港での普通選挙を支持するのが米国の
立場だ」と民主派支持を旗幟鮮明にした。普通選挙要求は普遍的なものだからである。

問題は、日本があいまいな態度を取り続けていることである。支持という言葉を意図的に避けて
いる。菅義偉官房長官は、3日の記者会見で、民主派を支持するかしないかを問われて「一国二
制度のもと、香港で自由で開かれた体制が維持されるのが大事だ」と答え、支持は避けている。
11月の北京での日中首脳会談実現への配慮からである。

肝心なことは、支持を明言しない中国への配慮は、安倍外交の本質である自由と民主主義の普遍
的価値感を共有する国々との連携に反することになる。安倍首相はオバマ大統領に続き、普通選
挙支持を旗幟鮮明にすべきである。中国は反発しても、米中首脳会談に応じるように、日中首脳
会会談にも応じざるを得ないからである。

編集 持田哲也

国債暴落論は暴論

コラム 経済

毎日の社説に「円安の進行」「負の側面を警戒しよう」が書かれている。

「最も警戒すべきは、円安が日本の長期金利の高騰(国債価格の下落)につながる可能性だろう。
一段の円安は、貿易赤字をさらに増やし、慢性的な経常赤字を招く恐れがある。巨額の財政赤字
を抱えた日本が経常赤字も増やすことに市場が注目した時どうなるのか。国の借金(国債)の返
済能力が不安視されれば金利が急騰し、日本経済に大打撃を与える」は、暴論である。

 

そもそも、日本の財政赤字は「借金1100兆円」と言われているが、政府のバランスシート(
貸借対照表)の「右側(負債の部)」だけの数字で、「左側(資産の部)」には650兆円程度
の資産がある。国の借金は、正しくは450兆円程度と半減以下となる。資産負債差額のGDP
比は米国と同程度の水準である。

 

日本は、市場から財政破綻する国とは全く思われていないのである。債券の安心度を示すCDS
(クレジット・デフォルト・スワップ)レートが、日本の国債は世界で10位の低さに位置して
いるからである。日本の国債は超安全であり、国債暴落論は暴論となる。再増税先送りはリスク
が高すぎるとの論理と同じである。出どころは、いずれも財務省発である。

 

日経の「日曜に考える」「市場アウトルック」「為替」に、「107~110円で揺れ大きく」
が書かれている。

 

「今週の円相場は1ドル=107~110円程度の範囲内で、振れの大きい展開となりそうだ。
先週は米早期利上げ観測を背景に円売り・ドル買いが加速した。ただ、この1カ月で7円近くも
円安が進んでおり、一時的に円を買い戻し利益を確定する動きが強まりやすい。

 

足元の円安を主導しているのは海外のヘッジファンドで、円売りの持ち高は今年最高の水準にま
で膨らんでいる。先週までに米早期利上げは織り込まれ、追加の材料がなければ一段の円安は進
みづらい。為替の先行き予想を反映する通貨オプション市場でも円安よりも円高へ備える動きが
優勢だ。

 

ただ、中期的には日米の金利差が開いていく可能性は高く、年末にかけて円安が続くとの見方は
多い。輸入企業の円売り注文も多く、円の上値も限られそうだ」。
今週の円相場は、1ドル=108円台で一服となりそうだ。1カ月で7円近くも円安が進んだか
らである。年末にかけて、110円まで緩やかに円安が進む動きとなる

 

日経の「永田町インサイド」に、佐藤賢・編集委員が「無党派層膨張のワケ」「第2次安倍政権
で24ポイント上昇」「自民支持低下、野党に流れず」「20~40代に多い傾向」を書いてい
る。

 

「特定の支持を持たない『無党派層』の動きが注目を浴びている。日本経済新聞社の世論調査で
は、7月に全体の47%に達し、調査を始めた1987年9月以降、過去最高を記録した。9月
3日の内閣改造・自民党役員人事が好感され、その直後の調査では38%まで下がったが、なお
高い水準にある。なぜ無党派層が膨らんでいるのか。

 

無党派層に厳密な定義はない。日本経済新聞社は世論調査で、まず『どの政党を支持しています
か』と聞く。『なし』や『言えない・分からない』と答えた人に『強いて言えば、どの政党に好
意を持っていますか』と尋ねる。それでも『なし』と応じた人を『無党派層』と呼んでいる。

無党派層は2013年10月に20%台に乗り、今年7月には47%となり、第2次安倍内閣で
最低だった自民党(35%)を上回った。40%台は調査開始から始めて。内閣改造直後の緊急
調査では、女性閣僚の積極登用などが評価され安倍内閣と自民党の支持率が盛り返し、無党派層
は38%になったが、比率はなお大きい。

 

計量政治学(選挙分析・世論研究)が専門の明治大の井田正道教授は『自民党の支持率が低下す
ると、無党派層が増える現象は以前からあった』とした上で、最近は大きな特徴が見られると指
摘する。『従来は自民党が下がれば野党は少し増えるか横ばいだったが、自民党の支持率低下に
野党離れも加わり、無党派層が急激に増加している』。

 

数字に端的に表れている。13年3月から今年9月まで1年半の変化を比べてみよう。無党派層
は14%から38%に24ポイント上昇した。一方で自民党の支持率は51%から44%に7ポ
イント下がり、民主党や日本維新の会など野党支持層も25%から13%に12ポイント落ちた。

 

無党派層が増えた分の約5割は、野党支持層から、約3割は自民党支持層から回った計算になる。
自民党が支持率を落としたのは、特定秘密保護法成立や集団的自衛権の行使容認などで、弱い支
持層の一部が離れたためとみられる。意識調査論などを専門とする桜美林大の橋本晃和特任教授
は、利害が絡んだ組織や団体との関係を持たない人が多くなり、『党派性を持たず、主体性を主
張する<個の確立>が進んでいる』との見方を示す。

 

野党も政権批判層の受け皿になっていない。二大政党の一角を目指す民主党は安全保障政策など
でバラバラな印象を与え、自民党との明確な対立軸を示せていない。維新は憲法観の違いから分
裂。みんなの党は渡辺喜美前代表の政治資金問題で失速した。
『有権者は民主党政権への失望が心に残り、なかなか民主党に行かない』『民主や維新、みんな
は政党としての歴史が浅いため政党支持が強くなりにくく、支持層がすぐに離れやすい』。井田
教授はこう分析する。

 

無党派層は年代別では20~40代に多い傾向がある。早稲田大の田中愛冶教授によると、一般
的に人の政治意識は8歳から24歳までに形成されていく。『40代前半から若い層は、政党に
頼れば日本がうまくいくという経験がなく、無党派になりやすい』と言う。93年に自民党が分
裂し、政党の離合集散が相次いだ。政権を奪還した自民党は、09年に再び下野。民主党政権も
3年3カ月しか続かなかった。

田中教授は無党派層を3つに分類する。第1は、政治への関心が低いため支持政党を持たない政
治的無関心層。第2は政党拒否層で、有権者になった時から『その政党も支持したくない』と考
える。第3は、それまでの政党支持を捨てて無党派になった脱政党層だ。

 

第1の層は選挙でほとんど投票に行かないが、第2の層と第3の層は経済や国際問題に関心が高
く、その時々で投票行動を決める。こうした無党派層が動き出せば『風』が吹く。『1強』の構
図に見える自民党の基盤は盤石なわけではない。

 

日経の9月調査で、自民党支持率は前回調査(8月)より7ポイント増の44%となり、無党派
層が8ポイント減の38%となったが、無党派層から7ポイント自民党支持に回帰したことにな
るが、まだ7ポイントが自民党支持に戻っていない。13年3月には自民党支持率は51%もあっ
たからだ。それが、今年の8月までに14ポイントも減らし、37%に落ち込んだからである、
14ポイントは、野党に向かわず、無党派層に流れたのである。

 

問題は、14ポイントも自民党から離反した理由である。特定秘密保護法や集団的自衛権行使容
認を嫌ってのものである。無党派層から回帰した7ポイントを定着化させ、残りの7ポイントも
回帰させるには、自民党支持層の思想武装が必須となる。「平和と言う名の戦争」に打ち勝つた
めである。
編集 持田哲也

政府の経済成長シナリオ

コラム 経済

産経の「2014観測」に「貿易赤字過去最大」「成長戦略のアキレス艦」「V字回復、輸出に
誤算」が書かれている。

財務省が24日公表した平成26年上半期(1~6月)の貿易収支は、半期ペースで過去最大の赤
字幅となった。輸出が2カ月連続で前年割れするなど、国の稼ぐ力が目減りし、政府は今年度の
実質成長率見通しの下方修正を余儀なくされている。消費税率引き上げの影響で、個人消費など
の下振れが避けられない中で輸出が回復しなければ、政府の経済成長シナリオにも狂いが生じる
恐れがある。

<Jカーブ不発>

『貿易収支は、次第に持ち直すだろう』。菅義偉官房長官は24日の記者会見で、今後の貿易赤
字縮小に期待感を示した。現在の貿易赤字については『円安の影響が大きい』と輸入額の増加を
指摘した上で、米国などの経済が回復傾向にあることなどを挙げ、外需拡大にも強気の姿勢を見
せた。

だが輸出回復の具体的な道筋は見通せないままだ。政府は、金融政策による円安効果が短期的に
は輸入コスト増となるものの、中長期では輸出拡大につながる『Jカーブ』効果を見込んだ。し
かし、為替変動のリスク回避を目的に、国内企業による生産拠点の海外移転が進み、円安効果を
相殺した。輸出は明確な改善の兆候がないまま、日銀による金融緩和から1年以上が経過してい
る。

加えて、最近は人手不足が企業の生産余力を低下させるという新たなボトルネックも浮上してい
る。設備投資の先送りとも相まって、供給制約に直面する企業は少なくない。欧州経済や米国経
済が回復基調にある一方で、外需の伸びに応えるだけの国内供給力には不安が残る。バブル期に
10%程度だった世界の輸出総額に占める日本のシェアは、現在4%程度にまで低下している。

<下方修正相次ぐ>

輸出の伸び悩みは、安倍晋三政権の経済政策『アべノミクス』のアキレス腱となる危険性がある。
政府や民間エコノミストらが口をそろえる『消費税率引き上げで4~6月の国内景気は一時的に
落ち込むが、夏以降には持ち直す』という日本経済のV字回復シナリオは、『輸出の回復が前提』
だからだ。

ここにきて、政府も見通しの甘さを認め始めた。内閣府は22日、26年度の実質国内総生産(
GDP)成長率見通しを1・2%と1月時点より0・2ポイント下方修正した。日銀も15日の
金融政策決定会合で、同様の見通しを従来の1・1%から1・0%に引き下げた。麻生太郎財務
相は、22日の閣議後会見で、『外需の低下が大きい』として、輸出低迷が今後の景気下振れリ
スクとなっている現状を指摘した。

日本経済は4月の消費税率引き上げの影響で、個人消費の不安定さがぬぐえないほか、公共事業
も人手不足の影響から≪カンフル剤≫としての効果が薄くなっている。さらに、輸出が低空飛行
を続ければ、景気のけん引役が不在となるのは必至だ。安倍首相が今年中にも表明する消費税率
10%への引き上げ判断にも、影を落とす恐れがある」。

財務省が24日発表した2014年上半期(1~6月)の貿易収支は半期ペースで過去最大の赤
字幅となった。輸出が2カ月連続で前年割れするなど「国の稼ぐ力」が減少しているからである。

問題は、政府の経済成長シナリオに狂いが生じたことである。「消費税率引き下げで4~6月の
国内景気は一時的に落ち込むが、夏以降は持ち直す」とのV字回復シナリオは、輸出の回復が前
提だからである。22日、内閣府は14年度の実質国内総生産(GDP)の成長率見通しを、1
月時点より0・2ポイント下方修正し、1・2%としたが、まだ甘すぎる。民間エコノミストの
平均予測は0・85%である。7~9月期のV字回復は期待できず、消費税率10%引き上げは
無理筋となる。

編集  持田哲也

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