長期政権で野党「負け組」?
産経の「正論」に吉崎達彦・双日総合研究所チーフエコノミストが「問われる政治的『安定』の意味」を書いている。
「参議院選挙が終わった。その結果を一言でまとめるならば、『安倍・自民党が国政選挙で6連勝を収めた』ということに尽きる。
1人区で惜しい競り合いがあったとか、自民党が単独過半数を割ったとか、いわゆる『改憲勢力』の議席が3分の2に届かなかったとか、細かなことを言い出すと切りがない。肝心なのは、与党が改選過半数を制し、非改選議席と合わせて141議席という安定多数を得たことである。
<長期政権で野党「負け組」?>
2012年12月の衆議院選挙に勝利し、第2次安倍内閣が発足して以来、この6年半に行われた衆議院2回、参議院3回の選挙はすべて勝っている。このままいけば、安倍晋三氏の首相在任期間はこの夏に通算で佐藤栄作首相を超え、秋には桂太郎首相を超えて歴代最長となる見込みである。
参議院選挙における比例代表での自民党の得票率を見ると、13年、16年、19年と3回連続でほぼ35%となる。これに公明党の13~14%の得票をかさねると、与党の得票は約半分に迫る。この組み合わせが長期政権を可能にしてきた。
これに対し、最大野党は13年には民主党であったが、16年には民進党となり、19年には立憲民主党と国民民主党に分裂した。毎回、党名が変わるようでは、二大政党制の枠組みさえ危うくなってきた。連敗を続けるうちに、『負け癖』がついたと評しては気の毒だろうか。
与党の6連勝とは、有権者が『藪の中の二羽』を求める野党やマスコミの声に耳を貸さず、着実に『手中の一羽』を選択してきたことを意味している。世界的に『ないものねだり』のポピュリズム(大衆迎合主義)が跋扈し、既成政党の機能不全が目立つ中にあって、日本における政治の安定度は際立っている。
<安定による貴重な「一羽」>
この6年半に日本経済は、名目国内総生産(GDP)で平均1・8%、実質GDPで1・1%成長を続けてきた。『緩やかな景気回復』で実感を伴わないとしばしば言われるが、人口減少などの構造的問題を乗り越えてきた成果だ。政治の安定によってもたらされた貴重な『一羽』と言えよう。
ただし、このモメンタムを維持していくことは容易ではない。秋に控える消費増税や、本格化する日米経済協議、貿易戦争に伴う世界経済の減速に備えていかなければならない。この夏には、補正予算の編成が必要かもしれない。
参院選に備えて、今年の安倍内閣は『安全運転』に徹してきた。『平成から令和へ』という歴史的な転換点に当たり、国会で審議する法案も絞り込んできた。しかし選挙後は、さまざまな面で長期的課題への対応を加速していかなければならない。
今年は5年に1度の『財政検証』の年に当たる。本来は6月頃に、厚生労働省が年金制度の長期持続可能性のシミュレーションを公表するはずであった。ところが『老後資金2千万円問題』が注目を集めたこともあり、発表は先送りされている。選挙前に、将来の年金支給への不安を増幅させたくなかったのであろう。
しかし選挙後は、財政検証と年金問題をめぐる議論が待ったなしだ。その上で来年の通常国会では、年金改革の法改正をスケジュールに乗せる必要があるだろう。
<社会保障改革に取り組むべき>
さらに22年には、団塊の世代の先頭が75歳にさしかかる。向こう2年間は、高齢者医療の在り方を検討するラストチャンスとなろう。将来的な給付と負担のバランスを見直す社会保障改革に取り組むべきである。
カジノ解禁を認めた『統合型リゾート施設(IR)実施法』では、実施に向けたルール作りを始めるべき時期と定めているが、その作業は先送りされてきた。カジノ反対の世論が選挙に影響することを恐れたからだが、この作業も急がねばならない。大阪におけるIR開業はできれば25年の万博開催に間に合わせたいものである。
思うに政治的安定とは、それ自体を目的にするものではない。安定を生かして何を実現したいのか。参院選後に問われよう。
ところで7月19日付の英エコノミスト誌が、『満足のパラドックス』という興味深い記事を掲載している。『繁栄から取り残された』と感じる有権者は、景気のどん底でポピュリズム政党になびくのではない。むしろ景気が良くなり始めたときに急進的になるという。言われてみれば、世界経済は08年のリーマン・ショックから長い低迷期を経て、それが少し良くなり始めた16年になり英国は欧州連合(EU)離脱を決め、米国はトランプ氏を大統領に選出した。
この法則を日本経済に当てはめると、今回の参議院選挙における左派ポピュリスト政党『れいわ新選組』の人気は、日本経済が既に最悪期を脱していることの証左かもしれない。
とはいえ、試されるのは保守政治の側である。参院選で得られた政治的安定を、安倍内閣がどう使うのかに注目したい」。
安倍自民党が国政選挙で6連勝を収めたが、その要諦は参院選の比例代表の得票率で3回連続の35%と公明党の14%とで49%とほぼ半分に迫っていることである、問題は、安倍晋三首相の悲願である憲法改正をなすには、公明党の14%が期待できないことである。自民党得票率の10%アップが必須となる。自民支持層の思想武装が急務となるが。
③日経の「参院選投票分析」㊥に「1人区の野党当選者、無党派6割が分水嶺」「自民支持層1割切り崩す」が書かれている。
「与野党の一騎打ちとなった32の1人区では、10の選挙区で野党統一候補が自民党候補に勝利した。野党が結集しても支持層で一般的に劣勢に立たされがちな候補が勝つには、無党派層や与党支持層を切り崩す力が問われた。
共同通信の全国出口調査では、自民支持層が37%、特定の支持政党がない無党派層が20%を占めた。野党は立憲民主党支持層が14%、共産党支持層が6%などで、合計して過半数に届かない。単純計算では、多くの選挙区で野党支持層を1人に集めただけでは自民候補には勝てない。
票差が約9000票と32の1人区で最小だった宮城では立民の石垣のり子氏が制した。出口調査で自民支持と答えた割合は39%、野党は国民民主、共産、社民各党を加えた4党の合計で26%だ。投票者数に換算すると13万人の差がある。無党派層の得票率で65%と相手候補の26%を圧倒し、自民支持層からも12%の票を奪い、この差を埋めた。
野党候補が無党派層の票をどれだけ集められたかを比べると、選挙区によって大きな差が出た。32選挙区で無党派のなかの得票率が最も高かった野党候補は愛媛の永江孝子氏の74%、最も低いのは共産党候補に一本化した福井の33%だった。40ポイント超の差がある。
32人の野党候補のうち無党派層の得票率60%以上の野党候補は12人。このうち、秋田の寺田静氏や沖縄の高良鉄美氏ら9人が当選した。今回の1人区では『無党派層の6割』が当落の分水嶺だったと言えそうだ。
勝利を収めた野党候補は自民支持層からも一定の票を集めた。愛媛の水江氏には自民支持層の33%も投票した。ほかの9人の候補も自民支持層からの得票率が全員10%を超えた。10%を集められなかった青森の立民候補や三重の無所属候補は落選した。
もっとも選挙区によって野党支持層の厚みは異なり、候補者の特性など例外はある。岩手では自民支持が33%、野党4党の合計が31%。双方が自陣の支持層を固めるだけで接戦になる。長崎の国民民主候補は無党派6割、自民支持1割を集めても敗れた。長崎は自民支持率が41%、野党4党が22%と差が大きく、切り崩しが足りなかった。『無党派6割』などの目安は投票率の高さによっても変わる可能性がある」。
自民党は32の1人区で22勝10敗となったが、10敗の敗因は何か、である。自民支持層、公明支持層の1部が野党共闘候補に流れたからである。事実、愛媛では自民支持層の3割が回っている。自民支持層の思想武装が急務となる。次期衆院選は国民投票とのダブル選となり、9条改憲が争点となるからだ。
2019/07/30 11:09