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ASEAN経済共同体

コラム 国際

日経の社説に「ASEANと戦略的に関係深めよ」が書かれている。
 
「東南アジア諸国連合(ASEAN)と日本が公式な関係を結んで40年を迎えた。この間、日本の政府開発援助(ODA)や日本企業の投資は東南アジア諸国の発展を後押しし、ASEAN諸国の台頭は日本経済の国際化を促してきた。日本とASEANの政治関係は日中や日韓に比べると安定している。
戦後日本のアジア外交のなかで対ASEAN外交は成功を収めてきたと評価できよう。この資産を生かし、ともに繁栄できるアジアを築くためのパートナーとして絆を強固にしていきたい。
 
<生かしたい40年の資産>
その意味で、40年の節目に合わせた特別首脳会議が東京で開かれ、外交・安全保障や経済に加え、環境や防災といった社会問題や文化の面も含めて協力を深める長期的なビジョンを打ち出したのは、重要な前進といえる。問われるのは、ビジョンを具体化し塊を入れる作業だ。
 
経済面では2015年に予定されるASEAN経済共同体の発足に注目する必要がある。6億人超の「単一市場」は、人口では欧州連合(EU)を上回る。EUほど強力な市場統合ではないものの、高いレベルの関税撤廃が実現しつつあり、日本にとっては新たな好機だ。同時に挑戦でもある。
日本企業は早くから東南アジアに進出してきた。ブランドも浸透し事業基盤は堅固だ。たとえばインドネシアの自動車市場で日本軍のシェアは約9割に達する。だが今の優位が続く保証はない。米ゼネラル・モーターズがインドネシア工場の建設に乗り出すなど、世界の企業が入り乱れて競い合う時代を迎えつつある。日本勢はこれまで以上に商品開発力を問われる。域内各国の拠点を結んだ効率的なサプライチェーン(供給網)を築くことも課題だ。
 
ASEAN諸国の文化的多様性を活用する戦略も求められる。味の素はインドネシアに1800人の営業マンを配置し、イスラムの戒律にのっとったハラル食品に関するノウハウを蓄えている。南アジアや中東へ展開するための足場とも位置づける。こうした日本企業のビジネス展開を後押しするような環境の整備に、日本政府は心を砕くべきだ。貿易や直接投資、企業法制に関する規制の調和をASEANに促していくことは、ASEANの企業にも新たな機会をもたらし各国の潜在力を引き出すはずだ。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に参加するベトナムとマレーシアなどは高い水準の通商ルールづくりに取り組んでいるが、多くのASEAN諸国にとってTPPはハードルが高い。自由化に向けたノウハウや技術の提供を惜しんではならない。
 
日本とASEANの関係が始まった40年前は、冷戦のさなかだった。いまや冷戦は終結し、ASEANも反共の地域機構という性格を脱した。一方で中国をはじめとする新興国の台頭と米欧の力の相対的な衰え、地球温暖化が一因と疑われる異常気象の多発など、新たな課題が浮上している。新興国の一角を占めるASEAN諸国と、アジアを代表する先進国・日本がこうした課題に手を携えて取り組んでいくことができるかどうかは、この地域、ひいては世界の行方を占う意味がある。
  

<中国への対応は難題>
特別首脳会議が、中国の防空識別圏問題を念頭に「上空飛行の自由」を求める原則的な立場を表明したことや、防災・減災面の協力を拡充すると強く打ち出したことなどは、評価できよう。日本が特に留意すべき点が2つある。一つは中国とどう向き合うか、だ。安倍晋三首相がフィリピンのアキノ大統領との会談で巡視船を供与する方針を示したように、中国の風圧を強く受けている国々を支える必要がある。
一方で、中国との対決色が強まることや日中対立に巻き込まれることを懸念する国への目配りも、欠かせない。ASEAN内の様々な声に耳を傾けながら、日中関係も建設的な方向へと転回させる努力が求められる。
もう一つはASEAN域内の経済格差だ。インドシナ半島を横断する道路『東西回廊』の建設支援など、域内の一体化を日本は助けてきた。今後は防疫の強化や環境規制の整備などソフト面の支援も拡充していくべきだ。
特別首脳会議をにらんで安倍首相は今年、ASEAN10カ国すべて訪問した。東京での会議開催をゴールとするのではなく新たな出発点として戦略的に関係を深めていきたい。
 
2015年にASEAN経済共同体発足が予定されているが、6億人を超える「単一市場」であり、人口でEUを上回る。安倍首相が、1年間で、ASEAN10カ国を歴訪し、その仕上げとしての14日の特別首脳会議は、ASEAN経済共同体との連携をにらんでのものである。
問題は、中国との争奪戦になることである。中国が東シナ海上空に防空識別圏を設定したのは、ASEAN経済共同体を中国の覇権下に置く狙いがある。安倍首相は、日米同盟をテコに、ASEAN経済共同体を中国の覇権主義から守る責務を負っている。集団的自衛権行使容認が急務となる。
  
編集 持田哲也

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