日刊労働通信社 | 政府の経済成長シナリオ

政府の経済成長シナリオ

コラム 経済

産経の「2014観測」に「貿易赤字過去最大」「成長戦略のアキレス艦」「V字回復、輸出に
誤算」が書かれている。

財務省が24日公表した平成26年上半期(1~6月)の貿易収支は、半期ペースで過去最大の赤
字幅となった。輸出が2カ月連続で前年割れするなど、国の稼ぐ力が目減りし、政府は今年度の
実質成長率見通しの下方修正を余儀なくされている。消費税率引き上げの影響で、個人消費など
の下振れが避けられない中で輸出が回復しなければ、政府の経済成長シナリオにも狂いが生じる
恐れがある。

<Jカーブ不発>

『貿易収支は、次第に持ち直すだろう』。菅義偉官房長官は24日の記者会見で、今後の貿易赤
字縮小に期待感を示した。現在の貿易赤字については『円安の影響が大きい』と輸入額の増加を
指摘した上で、米国などの経済が回復傾向にあることなどを挙げ、外需拡大にも強気の姿勢を見
せた。

だが輸出回復の具体的な道筋は見通せないままだ。政府は、金融政策による円安効果が短期的に
は輸入コスト増となるものの、中長期では輸出拡大につながる『Jカーブ』効果を見込んだ。し
かし、為替変動のリスク回避を目的に、国内企業による生産拠点の海外移転が進み、円安効果を
相殺した。輸出は明確な改善の兆候がないまま、日銀による金融緩和から1年以上が経過してい
る。

加えて、最近は人手不足が企業の生産余力を低下させるという新たなボトルネックも浮上してい
る。設備投資の先送りとも相まって、供給制約に直面する企業は少なくない。欧州経済や米国経
済が回復基調にある一方で、外需の伸びに応えるだけの国内供給力には不安が残る。バブル期に
10%程度だった世界の輸出総額に占める日本のシェアは、現在4%程度にまで低下している。

<下方修正相次ぐ>

輸出の伸び悩みは、安倍晋三政権の経済政策『アべノミクス』のアキレス腱となる危険性がある。
政府や民間エコノミストらが口をそろえる『消費税率引き上げで4~6月の国内景気は一時的に
落ち込むが、夏以降には持ち直す』という日本経済のV字回復シナリオは、『輸出の回復が前提』
だからだ。

ここにきて、政府も見通しの甘さを認め始めた。内閣府は22日、26年度の実質国内総生産(
GDP)成長率見通しを1・2%と1月時点より0・2ポイント下方修正した。日銀も15日の
金融政策決定会合で、同様の見通しを従来の1・1%から1・0%に引き下げた。麻生太郎財務
相は、22日の閣議後会見で、『外需の低下が大きい』として、輸出低迷が今後の景気下振れリ
スクとなっている現状を指摘した。

日本経済は4月の消費税率引き上げの影響で、個人消費の不安定さがぬぐえないほか、公共事業
も人手不足の影響から≪カンフル剤≫としての効果が薄くなっている。さらに、輸出が低空飛行
を続ければ、景気のけん引役が不在となるのは必至だ。安倍首相が今年中にも表明する消費税率
10%への引き上げ判断にも、影を落とす恐れがある」。

財務省が24日発表した2014年上半期(1~6月)の貿易収支は半期ペースで過去最大の赤
字幅となった。輸出が2カ月連続で前年割れするなど「国の稼ぐ力」が減少しているからである。

問題は、政府の経済成長シナリオに狂いが生じたことである。「消費税率引き下げで4~6月の
国内景気は一時的に落ち込むが、夏以降は持ち直す」とのV字回復シナリオは、輸出の回復が前
提だからである。22日、内閣府は14年度の実質国内総生産(GDP)の成長率見通しを、1
月時点より0・2ポイント下方修正し、1・2%としたが、まだ甘すぎる。民間エコノミストの
平均予測は0・85%である。7~9月期のV字回復は期待できず、消費税率10%引き上げは
無理筋となる。

編集  持田哲也

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